ディア・ロストマン|Day2|お前らそこで、漫画書け

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Twitterフォロワー8万人を超える人気ライター・カツセマサヒコ氏による、7日連続公開の超短編小説。忙しなく生きる人たちに送る、電車一駅ぶんの物語。

カツセマサヒコ

(二日目)
+++1/4+++
スエヒロさんの通夜は、滞りなく行われた。あの傍若無人な性格を微塵も感じさせない、良い意味で哀しみに満ちた、悪い意味で他人行儀な式だった。

慣れぬ礼服を着た僕とトモは、スエヒロさんだったその人に手を合わせると、通夜振る舞いもそこそこに幡ヶ谷の会場を出た。「他人の死を目の前にして、よくお酒なんて飲めるよね」と、トモはとにかく不機嫌そうだった。

4月特有の気温差に、体が震えた。気持ちはどこか落ち着かず、電車に乗る気分になれなかった。僕らは、スエヒロさんの話をしながら、渋谷まで歩いて帰ることにした。

+++2/4+++
僕とスエヒロさんは、ライターと編集者という関係で、スエヒロさんが抱えた案件(炎上狙いのゴシップ記事もあれば、コンビニのスイーツ特集まであった)の多くを僕が書かせてもらっていた。

「お前ほど個性がない文章を書けるやつはそういねえよ」と、スエヒロさんはよく言った。
「普通は承認欲求とか自己顕示欲が働いて、もっとバイアスかかった記事を書くもんだ。黒子に徹していられるのは、ひとつの才能だぞ」昔から中肉中背、できるだけ目立たずに生きてきた僕にとって、その言葉は褒めているようにも貶しているようにも思えた。

+++3/4+++
「扇子は『末広がり』って言うだろ。俺は、縁起のいい名を背負って生まれたんだ」
スエヒロさんは、酔っぱらうとすぐに自分の名前について語る癖があった。そして決まってその後は、僕との師弟関係を何度も何度も讃えてくれた。

「でもな、扇子を支えているのは、真ん中のクギの部分、『要(かなめ)』だろ? 俺を支えてんのは、いつだってお前なんだよカナメ。わかるか?」

僕は「要(かなめ)」という自分の名があまり好きじゃなかった。だからスエヒロさんがこの話をする度、胡散臭く思いながらも、どこか救われるような感覚があった。
人脈も執筆の技量も持たず東京に出てきた僕にとって、スエヒロさんはまさに父親のようなものであり、生涯の師匠のようなものだった。

+++4/4+++
トモと出会ったのも、スエヒロさんがいたからだった。
交通機関を麻痺させるほどの大雪が降った日、鼻先までマフラーに埋もれたトモを連れて、スエヒロさんがオフィスに来た。

「こいつ、イラストレーターのトモコ。これから新しいメディアやるから、お前らそこで、漫画書け」

週刊連載。物語のひとつも書いたことのない僕が、原作者として初めて組んだパートナーが、トモだった。

(プロフィール)
カツセマサヒコ
フリーランスのライター・編集者。広告記事、取材記事、コラム、エッセイ、Web小説などの企画・執筆を中心に活動している。Twitter:@katsuse_m

撮影:Shinsuke Yasui
デザイン:Haruka Nakamura

ディア・ロストマン|Day1|タクシーは首都高を走る
ディア・ロストマン|Day2|お前らそこで、漫画書け
ディア・ロストマン|Day3|需要と供給の関係性
ディア・ロストマン|Day4|俺たちは日々、言葉を失っていくんだ
ディア・ロストマン|Day5|彼女もまた、失った。
ディア・ロストマン|Day6|わたしたちが笑えば。

ディア・ロストマン|Day7|末広がりの需要と供給

※記事の内容は公開時点の情報です。価格等の情報については変更している可能性がありますのでご了承ください。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加