映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」 vol.02未熟でイタかった「私」に出会う『スウィート17モンスター』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。2回目は、2017年4月22日公開の映画『スウィート17モンスター』です。渋谷の映画館だと、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

スウィート17モンスター

(C)MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

この時期だったらエマ・ワトソン主演の超話題作『美女と野獣』を扱ってよ!という声が読者はもちろん「THE SCRAMBLE」編集部からも聞こえてきそうですが、あの作品はどこでも語られるでしょうし、メガヒットがもうほぼ決まっている状態なので、本コラムではあえて触れません。みなさん観るでしょ? ぼくなんかにイチイチ言われなくても。それで良いんです。良い映画なのでぜひ観てください。それよりも今回ご紹介する『スウィート17モンスター』こそ、あまり知られていないけど観ておいて損のない一本なので、ちゃんとご紹介したいと思います。

「不幸な私」に酔いしれていた時代

本作は、17歳の冴えない女子高校生ネイディーンを主人公にした青春ドラマです。彼女の家族には、やたら厳しい母親と甘やかしてくれる優しい父親、そして何でもできるがナルシストの兄がいます。その家庭の中で冴えないままぼんやり育っていくネイディーンでしたが、父親が亡くなってしまうことで家庭のバランスが崩れていきます。しかも唯一といって良い親友が苦手な兄と付き合ってしまうことから、“世界で一番不幸な私”像を自分の中に作り上げていってしまうのです。

やたら多感で何でも他人と比べてしまう高校時代に、少しでも嫌なことがあったらすぐに世界と私の不調和に勝手に酔いしれてしまうこともあったと思います。いや、あったでしょう。本作は、自分が見つめている世界こそ世界の全てだと勘違いしていたカッコ悪くて痛々しいあの頃を思い出させ、胸の奥底がジンジンと疼きだす、そんな作品なのです。

「懐かしくてイタい感情」を呼び起こす緻密な表現

スウィート17モンスター

(C)MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

主人公ネイディーンを演じているのが、ヘイリー・スタインフェルド。彼女は『トゥルー・グリット』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたり、歌手としても名を馳せるなど、ハリウッドでもかなり注目されている若手女優です。彼女が繊細さの裏返しで世間に悪態をつきまくる17歳の少女の感情のグラデーションを緻密に演じていて、それが本作の成功の半分を占めています。その不器用さややるせなさに、かつての自分自身を見出して一発で魅了されるはずです。

そして、本作の成功のもう半分を占めているのが、脚本・演出をつとめたケリー・フレモン・クレイグ。彼女の描いた少女と世界の対立との融和は、実に無様で美しいものでした。とりわけ、ネイディーンの、見たいようにしか周囲を見ないエゴに満ちた視点から、兄と彼女の非を考えさせる描写は秀逸。大人の階段をのぼっていく少女とともに、家族もまた再生していきます。

観る者はそんなネイディーンの姿に、情けなかったかつての自分の姿を照らし合わせ、それが周囲の温かさによって救われてきたということを、あらためて感じるでしょう。青春映画は数多あれども、このさじ加減は書けそうで書くことができないし、描けそうで描けません。注目の実写版『美女と野獣』の裏側で、ひっそりと、しかしこんなにも秀逸な青春ドラマがあることを忘れずに。是非、映画館に足を運んでください。

若者からかつて若者だった人まで、さまざまな年代の人が集うボーダーレスな街・渋谷にはまさにぴったりの作品です。

▼Information
『スウィート17モンスター』
http://www.sweet17monster.com/
4/22(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか公開
配給:カルチャヴィル

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や、物事に関心のある人を増やす「偶然の学校」などを主催。

◆映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.01「感動の帰還劇に見え隠れするインドの現在『LION/ライオン ~25年目のただいま~』」

※記事の内容は公開時点の情報です。価格等の情報については変更している可能性がありますのでご了承ください。
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