映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.4 「あなたの人生」を問うSF『メッセージ』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。4回目は、2017年5月19日公開の映画『メッセージ』です。これはSF映画ですが、渋谷に生きるあなたの話でもあります。本作は、渋谷HUMAXシネマでご覧いただけます。

映画 メッセージ

SFという名の「聖域」に込められた愛

SFというジャンルは、一部にとっつきにくいイメージがあります。サイエンス・フィクションという言葉通り、科学的な見地からものを見ることを迫られているような気になります。

実際、科学的論拠の有り無しはSFにおいて重要で、その点でSFファンから突っ込まれる作品も少なくありません。それゆえに門外漢は踏み込んではいけない聖域として、SF作品を見つめることが多いです。

しかし、SFにしか描けない、科学を下敷きに、凛とした美しさと覚悟を感じる物語はあります。それはもはや、科学という括りを超えて、愛です。そんな卓越したSF映画が、『メッセージ』です。

突然の来訪者。そして人類は……

映画 メッセージ

本作は、宇宙船が地球の各地に12機飛来するところからはじまります。意図が全く分からないこの突然の来訪を理解するために、各国が選りすぐりの言語学者を招聘して、彼らとのコミュニケーションにあたります。アメリカ政府も、全米ナンバーワン言語学者の女性を起用して、彼らの意図を探ることになるのです。

この話だけを聞くと、私とは関係のない、難しそうな映画なんじゃなかろうかというイメージが湧いてくるかもしれません。しかし、この映画は観客を置いてきぼりにすることはありません。むしろ、観客は、映画を通じて自分自身の生き方や運命について向き合うことになります。

映画 メッセージ

彼らとのコミュニケーションは、極めて地味な言語解析を延々と行うことで進んでいきます。言ってしまえば、ひたすら地味です。そこには我々がこれまで何度も映画で観てきた、不思議な理力や暗黒面の力などは基本的に存在しません。仮面を被った父親と息子の因縁なども一切ありません。

ただ意思の通じない相手に対して諦めずに、敵対ではなく理解しようと努力を続ける人間の姿が映し出されます。その過程で、我々が生きる世界の対立構造の原因が同時に浮き彫りになっていきます。そんな緊迫した状況で、人は何を選択するのかが問われるのです。

極太の物語に描かれる「あなたの人生」

映画 メッセージ

ぼくがこの作品が本当に優れていると感じるのは、宇宙人の到来や世界の危機という極大の物事を描きながら、極小、つまり個人としてのわたしたちの運命を掘り下げることを可能にしている点です。

元となったテッド・チャンの小説のタイトルは「あなたの人生の物語」。主題として自分自身がこれからどう生きるのかを描くために、この映画の中の科学的な描写が存在しているのが、実に潔く美しい作品だと感じます。その意味では、映画におけるファンタジーもSFも大差はなく、描くべきことのための手段が魔法なのか、科学なのかの差だけだと気づきます。

その華やかさと物質的な豊かさで目の前のことが満たされている街、渋谷。その街を行き交う若い人々において、ひょっとしたら自分以外の世界のことはよく分からないし、科学のことはもっと関係ないと感じる人も多いかもしれません。

しかし、誰だって自分の人生について興味ない人はいないでしょう。言い過ぎでもなく、本作を観ることであなたの人生が変わるかもしれません。そんな奇跡と感動を、映画館に体験しに行ってはいかがでしょうか。

観終わって映画館を出た時、あなたの見つめる渋谷の景色が変わっているかもしれません。『メッセージ』は、そんなものの見え方すら揺るがすSF映画の傑作なのです。

▼Information
『メッセージ』
http://www.message-movie.jp/
5月19日(金)渋谷HUMAXシネマ他全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるPJ「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」 vol.03 人生はご都合物語ではない『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
◆映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」 vol.02未熟でイタかった「私」に出会う『スウィート17モンスター』
◆映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.01「感動の帰還劇に見え隠れするインドの現在『LION/ライオン ~25年目のただいま~』」

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