こんにちは、ライターの根岸達朗です。渋谷を舞台に活動しているさまざまな人にお会いして、その活動に込められた思いを聞いているこのインタビュー。今回は、渋谷を舞台にした市民参加型の音楽フェス「渋谷ズンチャカ!」の中心メンバーのひとりである、こちらの方にお話を聞いてきました。
演奏者と観客の境目を取っ払って、みんなで音楽をつくり、まちのなかで楽しむことをテーマにしているこの音楽フェス。2014年からスタートし、今年9月3日(日)には、第3回目の開催を予定しています。
▼渋谷ズンチャカ!Youtube動画
https://youtu.be/0ikktjnI35Y
▼渋谷ズンチャカ!
http://shibuya-zunchaka.com/
「渋谷ズンチャカ!」では、一般参加で募った市民アーティストによるライブパフォーマンスに加え、楽器ができてもできなくても参加できるさまざまなセッションやワークショップを実施。大人から子どもまで楽しめる多彩な催しを渋谷の各所で展開しています。
たとえば、こんな風に楽器を鳴らしながら、センター街を練り歩いたり、
持ち寄った楽器を使って、みんなで公園でセッションしてみたり、
楽器を持たずに、ただ大声を出してみたり、
世代の壁も取っ払って、とにかく自由で開放的な雰囲気。
これらの企画は、すべてボランティアがなんどもミーティングを重ねて、一つひとつ作り上げてきたもの。イベントの企画を経験したことのないメンバーも多く、今回お話を聞いた榎本さんは、そんな人たちの「何かをやってみたい気持ち」を受け止め、それぞれの企画を実現に導くためのさまざまなサポートを行っています。
運営の中心メンバーでありながら「裏方役」を自称する榎本さん。その仕事とはどのようなものなのでしょうか。そして、どんな思いで「渋谷ズンチャカ!」と関わり続けてきたのでしょうか。舞台となった渋谷のまちを歩きながら、あれこれと話を聞かせてもらいました。
「やーどうもどうも。今日はズンチャカのこととか、榎本さんのこととかいろいろ教えてください。よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ。早速ですけど、歩きながらお話していきましょうか。いまぼくたちがいるのはセンター街ですけど、ここは『歩くステージ』といって、ズンチャカの出演者たちが楽器を演奏しながら時間ごとにパレードをしたんですよ」
「ほうほう、パレードを」
「センター街に楽器隊が現れるだけでも、普段なかなか目にしない光景だと思うんですが、実はここにちょっとした仕込みもしまして」
「仕込みというと、サプライズ的な?」
「そうそう。えーと、どこだったかなあ、このへんのビルなんだけど」
「ああ、ここか! ここの屋上ですよ」
「雑居ビルですね。ここの屋上で何が?」
「時間になると、この屋上からトランペット奏者があらわれて、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』でパズーが吹いてた曲をやったんですよ」
「おお〜」
「こんなところから音鳴っちゃうんだっていうようなサプライズを入れたかったんですよね。足を止めて聞いてくれる人も結構いて、すごくおもしろかったなあ」
「アイデアがいいですね」
「思いつきレベルでも、かたちにしてみるのが大事だと思ってます。なので、ボランティアで企画の経験がなくても、気にすることないから、まずはやってみよ〜と後押しすることは多いですね。それでいうと、あるスタッフが企画した『ラップとピアノ』もすごくよかったんですよ」
「ラップとピアノ?」
「宇田川交番前にグランドピアノを置いてやったセッションなんですけど。そうですね、ここからも近いので行ってみましょうか!」
「うん、このあたりです」
「お巡りさんが近いので、妙な緊張感ありますね」
「ここでラップユニット『渋谷サイファー』のACEさんと、ズンチャカのスタッフがピアノでフリースタイルセッションしたんです」
「ACEさんというと、最近人気のテレビ番組『フリースタイルダンジョン』にも出ている?」
「そうそう! ぼくも後で知ったんですけど。そのACEさんが警察をリスペクトしながら絶妙なラップを繰り出すんですよ。それがおもしろくて(笑)」
「さすがだなあ」
「実はこの『渋谷サイファー』をブッキングしたボランティアスタッフは、渋谷に勤めてる普通の会社員の女の子なんですよ。仕事帰りに彼らのパフォーマンスを見て、かっこいいなあと思ったらしく、まったく面識ないのに、ズンチャカ出てくれませんか?って直接声かけたんですって。完全にナンパですよね」
「勢いがすごい!」
「言葉はあれなんですけど、ミュージシャンってほら、猛獣みたいなやつらばかりじゃないですか。それを音楽の企画なんてしたことがない、普通の会社員の女の子が熱意だけで口説いて、ライブセッションとか、何百人規模のパレードなんかも実現させちゃう。感動しますよね」
「ほかにもいろいろあったなあ。たとえば、『わたしの好きな音楽を、あなたはよく知らない。』っていう企画とか」
「なんですかそれ?」
「ビジュアル系の音楽が好きなボランティアスタッフの女の子がいて、その子は自分の好きな音楽はかなりマニアックだというんですね。でも、その音楽はマニアックすぎて、どうしても好きな人同士だけがかたまってしまうと」
「うん、ありそうです」
「じゃあ、どうにかして、その魅力をみんなが気付けるようにはできないかということで、最終的に仕上がった企画は、20分の持ち時間のなかで、好きな音楽のYoutube映像を流しながら、それがどう好きなのかをただひたすら語りたい人を公募するという」
「偏愛のプレゼン(笑)」
「目の付け所がすごくおもしろいし、最高だなあと思いました」
「榎本さんの仕事は、そういうボランティアの方々のやりたい気持ちを後押ししてあげるような感じなんですね? アドバイスしたりとか」
「そうですね。フリーでやってる僕の仕事って、大きく分けてふたつあるんです。ひとつは有志主体のプロジェクトを進めるためのお手伝い。はじめて企画をするようなときって、やっぱりおっかなびっくりになっちゃうじゃないですか」
「まあ、そうですよね」
「だから『このくらいでいいや』という風にもなりがちなんだけど、ぼくがアドバイスをしたり、一緒に考えたりしながら、その背中を押してあげるわけです。もうちょいいけるでしょ?と」
「ふむふむ」
「あともうひとつは、行政や企業の課題解決とか、目的達成に関わるプロジェクトを一緒に考えて企画すること。実はぼく、そういうことを学びの場で解決する『シブヤ大学』にも関わっていました。ズンチャカはそのご縁で声をかけていただいたお仕事なんです」
「ほ〜シブヤ大学ですか。渋谷に縁が深いんですね」
「たまたまですけどね(笑)。ただ、ポリシーとしてはシブヤ大学とズンチャカは通じているんですよ。というのも、シブヤ大学って『普通の人』でも先生になれる学びの場なんですよね。誰でも先生になれるし、生徒にもなれるんです」
「ああ、ボーダーレスなところがズンチャカと同じ」
「そうそう。ぼくはやっぱり『普通の人』にもっと活躍してほしいんですよ。その方が絶対に世の中おもしろくなると思っているから」
「なるほど。でもなんで榎本さんは、『普通の人』が活躍できたらいいと思うようになったんですか? 何かきっかけがあったとか?」
「んー。それでいうと、シブヤ大学に関わる前はぼく、友人と会社をやっていたんですよね。そこでプロを名乗る人たちともたくさん仕事をしてきたんですが、なんていうのかなあ……バスケにたとえたら、それってレイアップシュートなんじゃない? 本気でダンク打ちにきてないよね? というような仕事もやっぱりたくさん見てきて」
「やっつけ仕事みたいな」
「まあ、そうですね。そういうのを目の当たりにして、悔しい思いとかはありましたよ。仕事だけに限らずですけどね。いろいろ、ムカついてたのかもしれないなあ」
「プロってなんだと。適当な仕事してんじゃねえぞと」
「そこまで怒りを表に出してたわけじゃないです(笑)。でもぼくはこういう活動をしてきて思うんですよ。本気の素人はやっつけのプロを超せるんじゃないかって。もちろん最高にすごいのは、本気のプロなんでしょうけれど、本気の素人だって、それに負けないくらいすごい力を持っているわけで」
「高校野球とかもそうですよね。プロじゃないけど、全力でプレーしている姿に人は感動する。技術うんぬんというよりも、熱量の高さに人の心は動かされるというか」
「そうですね。だからズンチャカではまだ何者でもないけれど、何かやってみたいと思っているような『普通の人』にこそ、活躍してもらいたいです。その『普通の人』が、本気の挑戦を重ねていくなかから自分のやりたいことを見つけて、ゆくゆくはプロになる人も現れたらすてきじゃないですか」
「いいですね」
「今の世の中って、外向きのテンションは低く見えるんだけど、内側に情熱を持っていて、何かやりたいと思っている人は結構いるんですよね。でも、そういう人が実際に行動を起こせる場所って、実はあんまり多くない」
「ああ、そうかもしれない」
「でも、そういう内なる熱意の炸裂をもっと見たいなって。ぱっと見でイケイケの人なんて勝手にやればいいわけですし。だいたいイケイケなんて、いまの世の中でなれるほうがおかしくないですか?」
「わかります(笑)」
「だから、ズンチャカはそういう人でも活躍できる場にしたいですね。それは演奏者も、企画者も含めてですけど。何かを享受するだけではなくて、加担している側っていうのかな。そういう人がどんどん増えてほしいです」
「あ、そういえば、次回の開催に向けてスタッフ募集もしてましたよね」
「そうなんですよ。ボランティアには『がっつりズ』『まったりズ』そして『縁の下ズ』の三種類あって、自分のペースで関わってもらうことを大切にしてます」
「選べるっていいなあ」
「いま、サードプレイスとかよく聞きますが、家と職場だけじゃないもうひとつの居場所がほしいという人も増えているように感じます。ズンチャカがそういう人たちの受け皿にもなれたらいいですね。ぜひみんなで一緒におもしろいフェスをつくりましょう!」
「今日はありがとうございました。次回のズンチャカ楽しみにしてます」
すべての人に開かれたみんなでつくる音楽祭『渋谷ズンチャカ!』。どんな人でも自分のやり方で関われるって、とてもピースフルだし、愛にあふれていて、寛容さが求められる今の時代の空気にもすごく合っているなあと感じました。
昨年は渋谷駅周辺を中心に16ステージでの開催でしたが、今年は原宿方面にさらにエリアを拡げつつ、全部で20〜25ステージの展開を目指しているそうです。今年はどんな進化をみせるのか。興味ある人はサイトの情報もチェックしてみてくださいね。
次回もお楽しみに!
▼渋谷ズンチャカ!http://shibuya-zunchaka.com/
【著者紹介】
根岸達朗(ねぎし・たつろう)/ライター・編集者。発酵おじさん。 ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます。Twitter:onceagain74