映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.5 「引き」の感性『20センチュリー・ウーマン』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。第5回目は、現在公開中の映画『20センチュリー・ウーマン』です。オシャレな人が多い渋谷の皆さんにぜひお届けしたい、真にセンスあふれる作品です。本作は、渋谷シネパレスでご覧いただけます。

20センチュリー・ウーマン©︎ 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

オシャレな映画という言葉を聞くことがあると思います。衣装や美術がファッショナブルであったり、音楽や会話のセンスが抜群だったり、監督自身がオシャレな人であったり。オシャレの定義は曖昧ながらも、そうした作品には人を惹きつけるムードがあります。オシャレな渋谷のみなさんも、オシャレな映画は大好きなのではないでしょうか。

さて、ぼくの場合は表面的な美しさだけではなく、映画全体として気が利いているかが、オシャレな映画の基準になります。今回ご紹介するマイク・ミルズ監督の自伝的新作『20センチュリー・ウーマン』は、ぼくの基準において、まさにオシャレな映画です。

激動の時代に生きる母と息子の物語

20センチュリー・ウーマン©︎ 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

石油危機による経済不況の只中で、時代が大きく変わろうとしていた1979年。舞台は、アメリカ・カリフォルニア州サンタバーバラ。大恐慌時代を経験したシングルマザー、ドロシアと15歳の息子ジェイミーが暮らす広い一軒家には、その家に間借りをしている24歳のNY帰りの写真家女子アビーと、元ヒッピーの中年男性ウィリアムが暮らしています。

ジェイミーは、ご近所の親友で毎晩のように自分のベッドに忍び込んでくるのに絶対にセックスをさせない17歳の女子ジュリーに片思い中。母のドロシアは、アイデンティティを探す難しい年齢に差し掛かってきた我が子を理解したくてもできず、息子と歳の近いアビーとジュリーに相談して協力を仰ぎます。本作は時代の変わり目に生きる、そんな母親と少年の姿を描きます。

「さりげない」映像表現に宿る美的センス

では、親子の愛のかたちを描くオーソドックスな人間ドラマにも思えるこの作品が、なぜオシャレなのか、それをこれから解説します。

まず注目したいのは、卓越した画面センスです。たとえば冒頭、スーパーの駐車場でドロシアの車が燃えているショット。飄々とした過不足ない映像表現で、先々の親子関係の困難を予感させます。また、スケートボードでスラローム走行しながら道路を下るジェイミーのショット。ここにも、ゆらゆらと彷徨いながらアイデンティティを探し求める彼の心が重ねられています。

こうした何気ないシーンの隅々にまで意識を巡らせる映像表現が、ゆるゆると進むこの映画を魅力的に牽引し、自伝を描く作家本人の感情にも寄りすぎない、見事な客観性をこの作品に与えているのです。

登場人物に仮託された「20世紀の女性像」

20センチュリー・ウーマン©︎ 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

この距離感は、母親を中心としたジェイミーを取りまく3人の女性たちの描き方にも見受けられます。ジェイミーと同じく、感情移入の対象となる彼女たちには、その役割と同時に、それぞれが生きてきた時代と女性像が象徴的に仮託されます。

自伝というプライベートな物語の中に、この時代に存在するフェミニズムと20世紀の女性たち(原題は『20th Century Women』)が、時にハッキリと、あるいは紛れて映し出される。観客は、彼女たちを見つめながら、時代を見つめるのです。

「意味」のある音楽の使い方

さらにこの映画における音楽の使い方にも、マイク・ミルズのバランス感覚が現れています。たとえば、スケボー仲間に「アートファグ」と揶揄されながらもトーキング・ヘッズなどのニューウェイヴ音楽に惹かれる息子。その感性を理解しようとするも、なかなか受け止められないジャズ好きな母親の構図など、音楽を単なるBGMとして扱うのではなく、登場人物の背景と時代性を与えるものとして使います。

単にカッコいいからと差し込まれる、なんちゃってオシャレ映画での音楽の使い方とは一線を画しています。

マイク・ミルズという「クール」な才能

20センチュリー・ウーマン©︎ 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督のマイク・ミルズは技術的にも優れていますが、ときに主観的で熱くなりがちな自伝的な物語をその時代とともに語ることで、「熱くなりすぎない」ようにもできる絶妙なバランス感覚を持っています。

前作『人生はビギナーズ』もゲイをカミングアウトする老いた実の父親の話でしたが、今回の『20センチュリー・ウーマン』は、そのクールで均整のとれた視点がより進化していると感じます。

静かに情動豊かな物語を描きつつも感情任せにならない引きの感覚。それが、ぼくが本作をオシャレだと思う理由です。いつも坂道をスラローム走行していたジェイミーのラストショットもばっちりオシャレで気が利いてます。

▼Information
『20センチュリー・ウーマン』
http://www.20cw.net/
渋谷シネパレス、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開中

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるPJ「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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