愛を求めてどこまでも! 渋谷の名女将・蔵人の「今は」この街にいる理由

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渋谷で活動するあらゆる人の声を届けているこのインタビュー企画。今回は多様性にあふれる渋谷の街で、独特の存在感を放っている、ある人物をご紹介したいと思います。

スナック うつぼかづら

話を聞いた人:蔵人(くらんど)
「スナック うつぼかずら」女将兼、ときどき出張女将。1980年埼玉県所沢生まれ。郵便局員、牧夫、保険“OL”など、さまざまな職種を渡り歩いた後に、全国に出張して期間限定のスナックを開く「フリーランス女将」として独立。2016年にクラウドファンディングで「スナック うつぼかづら」を立ち上げた。

▼「スナック うつぼかずら」
http://broccoli-playhair.com/utsubokazura/
▼「スナック うつぼかずら」Facebookページ
https://www.facebook.com/utsubokazura.kura/

人とローカルを愛する「ソーシャル・ゲイ」を自称し、そのセクシュアリティを開放した個性的なキャラクターで親しまれる蔵人さん。豊富な人生経験を生かした恋愛コンサルティングを得意とし、夜な夜なお店に立ちながら、あらゆる恋のお悩みにも耳を傾けています。

◆1枚目

本日日曜なので定休日でーす 明日からまたお待ちしてます〜 #スナックうつぼかずら #渋2 #渋二

スナックうつぼかずらさん(@utsubokazura0404)がシェアした投稿 – 2016 9月 10 6:53午後 PDT

蔵人さんはゲイですが、自身が性的マイノリティであることを「強調するつもりはない」と語ります。しかし、渋谷といえば、男女平等と多様性を尊重する「ダイバーシティ」を推進している街。こうして渋谷に店を開いた今、変化のただ中にある渋谷をどのように捉え、どのように生きていこうとしているのかは気になるところです。

これまでの歩みを振り返りながら、渋谷に生きる蔵人さんという個性に迫ってみたいと思います。

ある日の午後、営業前のお店で話を聞いてきました。インタビューは、当サイトでは初登場となる私、ライターの皆本類が担当します。

全国各地から人がやってくるスナック

スナック うつぼかづら

個性的なファッションの蔵人さん。待ち合わせをしてもすぐ分かりました!

「初めまして。今日はよろしくお願いします! 早速ですが、蔵人さんは都会育ちとお聞きしましたが、渋谷にはご縁が?」

「もともと縁があったわけではないけど、お店を開くことになったから縁ができたよね。渋谷で特に好きなのは、青山の国連大学の前でやってるファーマーズマーケットかな。いい無農薬レモンが買えるのよ」

「ファッションアイテムから無農薬野菜までなんでも揃うのが渋谷のおもしろいところですよね! お店には普段、どんなお客さんがくるんですか?」

「うちの店は渋谷駅が近いけど、表参道駅からも歩いて来られるアクセスのいい場所だから、通りがかりの人から近所の会社員までいろんな人がきてくれるよ。私が旅行好きで地方につながりも多いので、遠いところから友達が遊びにきてくれることもあるのよねー」

「へ〜全国各地から人が集まる都会のスナックっておもしろいですね。蔵人さんの個性って、多様性のある渋谷の街のイメージにもなんだか重なってきます」

「そう? 多様性ってよく聞く言葉だから、私はちょっと食傷気味だけど(笑)。まあ、多様な人が集まってくるという意味では、私も渋谷も似たようなところがあるかもね。ほら、私ってでかくて派手でゲイでしょ。ある意味インスタ映えするところも渋谷っぽいのかもしれない(笑)」

出張女将で気付いた「ローカル」の魅力

「ところで蔵人さんは、どうして女将の仕事をやろうと?」

「今につながるきっかけをくれたのは地方のローカルだよね。もともと旅行が好きで、各地でフェスがあるたびに遠征をしていたんだけど、山梨の友達が私を出張女将として呼んでくれてね。それがすごくおもしろかったから、一念発起して会社を辞めたのよ。そこからね。私が『出張女将』として地方で期間限定のスナックをやるようになったのは」

全国各地を旅行しながら、出張女将をする蔵人さん

「出張女将ってあんまり聞きなれないフレーズなんですが、実際どういう風にやっているんですか?」

「友達の縁とかで場所を貸してもらって、普段このお店でやってるみたいにお酒をつくったり、お話をしたりして、お客さんをおもてなしするのよ。滞在期間はまちまちだけど、いろんな人に出会えるのは楽しいわよー」

「へええ。ホスピタリティ精神がないと務まらないなあ。地元の人も来てくれますか?」

「そうね。たとえば、私は山口県の萩市でやったことがあるんだけど、地元の人が私のお店をアフターでつかってくれたことがあってね、そのときはうれしかったなあ。出張女将をやってて一番うれしい瞬間は、そうやって街に受け入れてもらったと感じるときなの」

「確かに友達を除けば、地元の人は普通、通い慣れたお店にいきますよね。わざわざ蔵人さんのお店を訪ねるって、よっぽど気になるところがあったのかも」

「東京からやってきたゲイが店をやってるっていう、怖いもの見たさだったかもしれないけどさ(笑)、ありがたい話じゃない。最近は若者の移住とか流行ってるけど、ローカルの面白さってそういう土着の人が見てる景色にあると思うのよね〜」

スナック うつぼかづら

まだ夕方なのに、蔵人さんとお話ししているとまるで真夜中のテンション。コーヒーもブランデーにみえてきました。

「じゃあ、蔵人さんにとって渋谷で店を開いたのは、この街のローカルに向き合うことでもあったり?」

「私の場合はご縁があって、それがたまたま渋谷だっただけ。でもやるからにはローカル的でなくっちゃとは思っているよ。なんだかんだで東京には友達が多いし、クラウドファンディングでみんなが応援してくれた以上は、それにもちゃんと応えたいからね」

▼「スナック うつぼかづら」のクラウドファンディング
https://www.makuake.com/project/utsubokazura/

恋が教えてくれた「自由に生きること」

スナック うつぼかづら

「渋谷に店を構えて、さらに地方も飛び回って……蔵人さんってすごく自由な生き方をしていますね。昔からそうだったんですか?」

「ぜんぜん(笑)。ひとつきっかけになったことがあったとすれば、北海道の牧場で働いていた10代の頃の胸キュンストーリーかな。というのも、牧場生活は2年弱やったんだけど、月に3日しかお休みがなくて最後の方は本当にくたびれててさ。あるとき初めて無断欠勤して隣町のライダーハウスに逃亡したのよ」

「ライダーハウスというと、バイク乗りが集まるような?」

「うん。そのときは夏休みだったから、そこに全国からたくさんの人が来ていて、その中の大学生と知り合ったんだよね。その彼が18歳になる前で免許がなかった私に、『じゃあ俺のバイクに乗っけてあげるよ』って言ってくれてさ。海沿いの30kmをタンデムで走って……」

スナック うつぼかづらイメージ画像

「……初恋ですか?」

「いや、その前から色々あるわよ(笑)。でも、年上の男性に恋心を抱いたのはそれが初めてで。自分がこれまで接したことのない世界の人たちの優しさに触れて『わぁ!』ってなったのね。私もそろそろ青春がしたいと思って、その2ヶ月後には牧場を離れたの」

「へぇぇ。恋心をきっかけに視野が広がったんだ」

「そうね。でもこの話はそこで終わりじゃないのよ。私は牧場を離れて東京に戻る前に、フェリーで彼の住んでいる街まで行って自宅に突撃してさ」

「すごい行動力!」

「今考えたら完全にストーカー(笑)。でも、彼が泊めてくれてね。しかも、その彼のところに向かうフェリーのなかで知り合ったかっこいい男の子とも、寄港地の京都で一緒に牛丼を食べて三条大橋で別れたりしてさ〜」

「恋しまくりじゃないですか」

「それまでが上手くいかなすぎたから反動よ。でもそのおかげで、私はどこに行ってもいい、もっと自由に生きていいんだと気付いたの。それまでは人間関係につまづいてばかりだったからね」

人よりも馬が好きだった青春時代

スナック うつぼかづら

「蔵人さんの10代ってどんな感じだったんですか? そもそもなぜ北海道の牧場に?」

「私は高校受験に失敗したので、中学卒業後はしばらく郵便局で働いていたんだよね。そのとき、私にはとても好きな馬がいてね。その馬が引退レースで怪我をして亡くなっちゃったのをきっかけに、その馬が生まれ育った北海道に渡ったの。お墓参りをしようと思って」

「え、ひとりで?」

「そうよ。でも、現地に行って4日目くらいに『家出少年』扱いされちゃってさ。そこからいろいろあって、いつの間にか牧場で働くことになって。大好きだった馬のお墓参り旅行のつもりが、気づけば『おはようございます!』なんて言って働いていたという(笑)」

「いろいろありすぎですね(笑)。東京育ちなのにいきなり北海道の牧場生活に溶け込めたんですか?」

「当時は人と一緒にいるよりも、馬と触れ合ってる方がよかったの。どこに行っても最初は人間関係でつまづくタイプでね。休みの日もスタッフの人とどこかに行ったりするより、馬と一緒にいる方が好きだったな〜」

「今、スナックの女将としてみんなに愛されている蔵人さんとは思えない過去が…!」

「まあね。私にとって牧場生活は、自分がいかに人間関係が苦手かということを気付かせてくれたよね。でも、私は人間関係が苦手なんだけど、人間は好きなの。人見知りの人好きっていうのかな。牧場生活で自然に近い暮らしをして、それがはっきりわかったところはあったな」

渋谷という「人間交差点」に生きる

スナック うつぼかづら

「人見知りの人好きって、もしかしたらみんな多かれ少なかれそういうところあるかもしれないですね。みんな実はシャイっていうか」

「私の場合はさらにゲイだからね。それを隠して、女の子が好きだってことにしていたときもあったしね。生きづらさを感じてた10代だったけど、今となっては渋谷だって多様性の街とかいって、ずいぶんセクシュアリティにも寛容になったでしょ。時代は変わったよねー」

「ほんとそうですね」

「今でも別に人付き合いが得意とはいえないし、最初はピエロを演じちゃうこともあるの。でも、そんな私にも会いたいといって会いにきてくれる人がいる。それってありがたいことだよね」

スナック うつぼかづら

「それはこの場所があるよさかもしれませんね」

「うん。今日はどんないい男に出会えるかな〜なんてことを思いながらお店に立てるのは幸せよ。でもさ、私、ほんとはもっと自由に生きたいのよね」

「え、自由? 今もすごく自由そうに見えますけど」

「私のコンセプトは『会いたい人を我慢しない』ことなの。でも今はこの店にいなくちゃいけないでしょ。会いたい人を我慢しなくちゃいけないことも増えちゃったのは、ちょっとジレンマなのよね」

「そっかあ。むずかしいなあ」

「気になってる男がたくさんいすぎて困っちゃうよね。でも、ま、そうはいっても、ここでの仕事があるから旅行にも出られるわけだから、ぐちをこぼしてる場合でもないんだけどね。まだまだ都会の人間ドラマを見ていくわよ」

「まさに『人間交差点』を…」

「いやいや、弘兼憲史の作品なら私は『黄昏流星群』が好きよ」

スナック うつぼかづら

おもむろに『黄昏流星群』の魅力を語り出す蔵人さん。

「読んでみます(笑)。今日は蔵人さんの人生の話を聞かせてもらえてよかったです。本日はありがとうございました!」

「こちらこそ。今度は恋愛コンサルタントもするよ!」

さいごに

人付き合いが得意だったわけではないけれど、「それでも人と一緒にいたい」という心の声に寄り添いながら、これまでの人生を歩んできた蔵人さん。不器用にしか生きられない自分を受け入れているからこそ、「会いたい人を我慢しない」生き方も貫いてこれたのかもしれません。

渋谷の街の片隅で、あらゆる人が交差する「スナック うつぼかづら」。人を愛し、ローカルを愛する蔵人さんの“今”に出会えるすてきなお店です。気になる人はぜひ足を運んでみてくださいね。

今夜も乾杯。

▼「スナック うつぼかずら」
http://broccoli-playhair.com/utsubokazura/

【著者紹介】

スナック うつぼかづら

皆本類(みなもと・るい)
ライター・編集者。昭和生まれ90年代育ちのキャリアウーマンです。Twitter:rui_tamago

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