映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.14 トム・クルーズ最新作『バリー・シール/アメリカをはめた男』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。14回目は、2017年10月21日(土)公開の映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』です。バカだけど豪胆な愛すべき男の一生を経験したいと考える渋谷のあなたにお届けします。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

最後のハリウッドスター「トム・クルーズ」の最新作

バリー・シール/アメリカをはめた男(C)Universal Pictures

映画という概念を知っている人の中で、トム・クルーズという名前を聞いたことがない人は、渋谷はもちろん、世界でひとりもいないかもしれません。それほど、トム・クルーズは現代の映画界で大きな存在感を示しています。

初期作品の『卒業白書』でちょっと気になる俳優になった彼は、出世作『トップガン』のマーベリック役で世界的に注目を集めます。その後『ハスラー2』『カクテル』などで名を馳せ、『7月4日に生まれて』『ザ・エージェント』ではアカデミー賞にもノミネートされるなど演技面も評価されました。

そして近年は『ミッション:インポッシブル』シリーズなどのメガヒット作品を連発し、今や最後のハリウッドスターとして映画界に君臨しています。同シリーズでは、プロデューサーとしても卓越した手腕を発揮するなど、世界が彼の動向に注目をしている中、俳優としての彼の魅力を再び引き出した作品が登場しました。それが『バリー・シール/アメリカをはめた男』です。

「無鉄砲」だが「無敵」ではない男

バリー・シール/アメリカをはめた男(C)Universal Pictures

本作は、あまりに破天荒でその存在を信じがたい実在の人物、バリー・シールの人生を描いたものです。1970年代、大手航空会社で凄腕パイロットとして働いていたバリー・シールは、その腕を見込まれてアメリカ諜報機関CIAにスカウトされます。

家族に内緒でCIAのミッションを引き受けた彼は、中米で航空機による偵察活動を行うのですが、その過程で現地の麻薬組織とつながりを持ち、あろうことかCIAの仕事に加えて麻薬の運び屋稼業を掛け持ちます。そして、政府すら騙しながら国家的犯罪行為で大金を荒稼ぎしていくのです。

バリー・シール/アメリカをはめた男(C)Universal Pictures

先々のことを全く考えられない無謀な人物なのか、そのリスクさえ飲み込んでしまう豪胆な天才的詐欺師なのか、常人には理解しがたいこのバリー・シールを演じるのがトム・クルーズ。

近年の彼は、いかなる状況でも善の心と驚異的な行動力でミッションをクリアする超人的スパイや、寡黙でイリーガルだが目的遂行能力が高く絶対に負けない凄腕エージェントを演じるなど、明らかに人間離れした役どころの印象があります。

しかし、今回演じるバリー・シールは、無鉄砲ではあるものの決して無敵ではなく、悲劇と喜劇を内側に抱えた人間味しかない役どころ。家族を含めた周囲を振り回しながら、同時に自身も時代や政府に振り回されます。強いが脆い、そんなひとりの男を滑稽に演じる。こういう役どころは、あらゆる作品で「無敵のヒーロー」を演じてきた近年のトム・クルーズには見られなかったものであり、それが実に魅力的なのです。

「重さ」や「暗さ」をユーモアで包む手腕

バリー・シール/アメリカをはめた男(C)Universal Pictures

本作において、そんなトム・クルーズの魅力を引き出したのは、ダグ・リーマン監督。彼は『Mr.&Mrs.スミス』や『ジャンパー』などの軽快な娯楽作品で知られ、何度も蘇って人生を繰り返す『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でトム・クルーズと一緒に仕事をしています。

ダグ・リーマンの魅力といえば、小気味良いテンポで生み出される作品のグルーヴ。本作も、ブレーキ知らずの変人の歴史を軽妙なテンポで描き、物語がリズミカルにアップダウンを繰り返していきます。

この規格外の男の一生が、犯罪の重さや暗さを引きずることなく終始絶妙なユーモアに包まれていくのは、トム・クルーズが生来持つ陽性な人間味とダグ・リーマンのストーリーテリングの力が大きいでしょう。

もちろん陽気な本作の影には、現実的に政府が個人を利用するいびつな社会構造そのものがハッキリと見えています。しかし、監督はその様相を哀しく切ない人間ドラマとして描くことはしません。そこはかとなく哀愁を漂わせながらも、ひとりのバカげた男の底知れない野望で彩る。トム・クルーズの好演とともに、それが本作を一級の娯楽作品に仕上げている理由でもあるのです。

▼Information
『バリー・シール/アメリカをはめた男』
http://barry-seal.jp/
10月21日(土)全国公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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