映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.16 人間の「幸せ」を問う『gifted ギフテッド』    

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。16回目は、2017年11月23日(木・祝)公開の映画『gifted ギフテッド』です。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

特別な才能を与えられた少女の物語

gifted ギフテッド(C)2017 Twentieth Century Fox

マーベル映画『キャプテン・アメリカ』の主人公キャプテン・アメリカは、マーベル・シネマティック・ユニバースの中心的人物。そのキャプテン・アメリカをこれまで何作も演じているのが、クリス・エヴァンスという俳優です。彼は、以前にも同じくマーベル映画『ファンタスティック・フォー』で燃え上がる男ヒューマン・トーチを演じるなど、超人的な能力を持ったスーパーヒーローの印象が強い俳優として知られています。

そんな彼が、これまでの印象から逸脱した、人生に迷いながらも義理の娘のために奮闘する普通の男を演じました。その作品が、今回ご紹介する映画『gifted ギフテッド』です。

本作は、高名な数学者だった母親を亡くした6歳の少女メアリーが、母の弟で叔父のフランクに引き取られて普通の生活を送っているところから始まります。一見するとごく普通の少女メアリーですが、彼女には“gifted”(特別な才能)があり、極めて優れた数学的センスを持った天才なのです。

しかし、それを知っているフランクは亡き姉の生前の望みどおり、できるだけ普通の子供の生活をメアリーに過ごさせようと彼女への英才教育を拒否しています。そこにメアリーの祖母でありフランクの母親が突如現れることで、彼らの運命が転がり始めるのです。

少女にとっての「幸せ」とは何か

gifted ギフテッド(C)2017 Twentieth Century Fox

誰しもが一発で心を惹きつけられる本作の魅力。それは、フランクとメアリーの幸せな関係性でしょう。実の親子ではないものの、メアリーの母の喪失から仕方なく共同生活をすることになったふたり。気がつけばお互いを大切に思い、時には言い合いになったりもするけれど、絶対に必要な存在として深い信頼と愛情で結ばれていることが、彼らの日常のやり取りの端々から伝わってきます。

少し大人びた言動をすることもあるメアリーに少々手を焼きつつも、その本質的な子供の部分を大切に考えているフランクの優しさが、スクリーンを見つめる観客にまで沁みてきます。事件ばかりではなく些細な日常のやり取りを丁寧にみせることで、フランクとメアリーの絆が押し付けがましくなく自然と表現され、そんな彼らを引き離そうとする外部の力に対して、私たちは強い反発を感じるのです。

フランク役はクリス・エヴァンス。前述の通り、これまでのクリス・エヴァンスとは一線を画した、ごく普通の男の優しさが滲み出る芝居に心奪われる人が多いのではないでしょうか。しかし、それを上回るのがメアリー役のマッケナ・グレイス。天才少女でありつつ内面はごく普通の女の子という二面性を持つ役を演じていますが、そのたぐいまれな愛らしさが、本作の軸に彼女がいるという説得力を与えています。その存在感が、彼女の幸せにとって何を選択すべきなのかという観客の思考と感情を引っ張り続けるのです。

『(500)日のサマー』に通じる繊細な心情描写

gifted ギフテッド(C)2017 Twentieth Century Fox

本作の細やかな心情表現は、監督を務めたマーク・ウェブにはお手のものでしょう。彼の代表作として、ぼくは大作『アメイジング・スパイダーマン』よりも、『(500)日のサマー』を挙げたいと思います。このビターなボーイ・ミーツ・ガールの物語は、よくある恋愛劇のきれいごとを丸めてゴミ箱に投げ捨ててしまったようなリアルでヴィヴィッドな心情描写により、すべての恋に悩んだことのある若者たちの心を打ち鳴らしました。

そんな彼は、子供を上手く描く術も心得ています。同作で恋愛に悩む主人公の小憎らしくも愛らしい親戚の子供役にブレイク前のクロエ・グレース・モレッツを起用し、物語のスパイスとして効果的に機能させていました。この『gifted ギフテッド』でも、子供と大人の親密かつ切実な心情をユーモアと愛情を交えて巧みに描いています。マーク・ウェブは、こういう作品をもっと撮るべきでしょう。

社会の前進と個人の幸福はどちらが重いのか

才能に溢れる人がいれば、その才能を周囲の人の力で伸ばしてあげることに社会的な意味があると考えがちなのは事実です。しかし、本人にとって何が幸せなのかは、ひとつの才能の前に人間であることを尊重して考えなければなりません。

本作が観客に投げかけているのは、社会の前進と個人の幸福はどちらが重いのかというメッセージ。無自覚で傲慢な正義の押し付けではなく、愛をもって見つめる視点の重要性なのです。

▼Information
『gifted ギフテッド』
http://www.foxmovies-jp.com/gifted/
11月23(木・祝)TOHO シネマズシャンテ他、全国ロードショー
(C)2017 Twentieth Century Fox

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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