映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.17 不寛容の時代に生きるすべての人へ『希望のかなた』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。17回目は、2017年12月2日(土)公開の映画『希望のかなた』です。縁遠いけど知らなければいけない難民問題について、渋谷のみなさんにもぜひ考えてもらいたいと思います。本作は、ユーロスペースでご覧いただけます。

シリアから流れ着いたある男の物語

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

あなたは、シリアの難民についてどれほど知っているでしょうか。と言いつつ、ぼくもこの問題に精通しているわけではありません。渋谷を行き交う多くの人にとっても、この問題は日常との距離が大きく、真剣に向き合って議論することはほとんどないかもしれません。

しかし、この無視できない世界的問題について、原因を知ること、そして今、彼らがどのような境遇に置かれているかを知ることはとても重要です。そんなシリア難民が置かれている実態にユーモアをまぶして悲哀と優しさで描いたのが『希望のかなた』です。

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

本作の舞台は、フィンランド、ヘルシンキ。数多の国を越え、貨物船でこっそり密入国してきたシリア難民の男カーリドは、混沌の地、シリアから妹と共に脱出してきました。しかし、移動中に妹とはぐれてしまい、ひとりフィンランドに流れつきます。

正当な手続きのもと、当局に難民申請をするものの却下され、強制送還されそうになる彼は、ひとりのレストラン経営者の男と出会います。その男の名は、ヴィクストロム。飲んだくれの妻とさえない仕事に嫌気が差し、家を出て新しくレストラン経営を始めた彼が、カーリドに救いの手を差し伸べるのです。

アキ・カウリスマキならではのユーモアがたっぷり

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

この映画の監督を務めたのは、フィンランドの巨匠、アキ・カウリスマキ。彼は、前作の長編『ル・アーヴルの靴みがき』でもアフリカからの難民の少年とル・アーヴルの靴みがき職人の老人の出会いをユーモアと優しさで描きました。本作はそれに続く港町三部作あらため、難民三部作の2作目として位置づけられ、再び、難民と地元民の出会いを描きます。

カウリスマキの作品には、どれほど社会の苦悩や悲劇が描かれようとも、必ずユーモアと優しさが付随します。本作でもたとえば、職も宿もなくレストランのゴミ捨て場に身を寄せたカーリドは、文句をつけてきたレストラン経営者を殴りますが、逆にレストラン経営者に殴り倒されてしまいます。その上で、レストランでご飯を食べさせてもらった上に仕事をもらうのです。

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

一見、シュールな展開ですが、弱い立場である彼の存在と、そんな彼を突き放すのではなく支援する寛容さを、カウリスマキは多くを語ることなく表現するのです。

弱者を見つめる目線の優しさ

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

本作では、難民申請をするカーリドの身に理不尽な裁定が下ります。それはまさに今、世界を支配する不寛容の一端でしょう。しかし、当局に突き放されて絶望的な状況に追い込まれた彼は、市井の人々の手によって支えられます。

それは、同じく当局に身柄を拘束された、立場の弱いイラン人の男でさえ、妹を探そうと必死な彼に力を惜しみなく貸してくれます。現実社会は甘くはないことを前提に、しかし追い詰められた人々を救う手立てのひとつを、カウリスマキが映画を通じて指し示しているのです。

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

「これほどシリアスな問題をユーモアで描くなんてちょっと酷いのではないか!?」という声もどこからか聞こえてくるかもしれません。でも、ぼくはそうは思いません。悲惨な実態を悲惨であるとだけ訴えることで、多くの人に届けられるとは思えないからです。また、シリア難民が悲劇的状況に置かれているとしても、彼らが単にかわいそうな人たちであると決めつけることもまた、我々の傲慢といえます。

この問題を表面的な物語として描くのではなく、確かに息づく彼らの姿、そして窮状の彼らにとって、我々が一体何をすべきなのかを、映画を通じて世界に表明しているのが本作と言えるでしょう。カウリスマキの映画は、弱者を見つめる目線の優しさには、そういった強さが内包されているのです。

希望のかなた(C)SPUTNIC OY, 2017

▼Information
『希望のかなた』
http://kibou-film.com/
12月2日(土)ユーロスペースほか全国順次ロードショー
(C)SPUTNIC OY, 201

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.16 人間の「幸せ」を問う『gifted ギフテッド』
◆vol.15 恐怖のピエロが帰ってきた『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
◆vol.14 トム・クルーズ最新作『バリー・シール/アメリカをはめた男』

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