映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.20 9年間で9度死にかけた少年の秘密『ルイの9番目の人生』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。20回目は、2018年1月20日(土)公開の映画『ルイの9番目の人生』です。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

毎年、死にかける謎の少年

ルイの9番目の人生(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞監督賞を受賞したアンソニー・ミンゲラは、2008年に亡くなりました。彼は生前、ある原作の映画化を熱望していました。それは、アンソニー・ミンゲラの息子である脚本家のマックス・ミンゲラをも魅了。マックスは父の死後、その原作をもとに『ルイの9番目の人生』として映画化を実現させたのです。

8歳にして8回も死にかけた少年、ルイ。その都度、奇跡的に一命を取りとめ、どうにか9歳になったものの、その誕生日、親子3人でピクニックをしている際に崖から海に転落。再び意識不明の重体に陥ります。

母親のナタリーは、我が子に次々と起こる不幸にショックを受けて憔悴。息子の回復を祈りますが、警察はこの転落に事件の匂いを感じ取り、ルイが転落してから失踪した彼の父親を探そうとします。そして、ルイの担当医もまた、彼の人生の謎を解き明かそうとするのです。

すべての謎はラスト9分間に

ルイの9番目の人生(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

本作において観客の緊張感を引っ張るものは、やはり謎に満ちたルイの不幸と奇跡的な生還でしょう。

出産時の帝王切開から始まり、寝ているベビーベッドにシャンデリアが落ち、偶然コンセントに感電するなど、なぜか彼の身に毎年のように命にかかわる重大な危機が訪れます。それは不幸な星のもとに生まれただけなのか、何か理由があって起きている事故なのか、それとも何か明確な意思が働いた事件なのか。

ルイの9番目の人生(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

本作は、過去を調査していく担当医の視点に加えて、昏睡状態にあるルイの視点も入り交じり、時系列や事実を歪ませながら観客を大きな謎へと誘導していくのです。観客が類推する答えを回避する意外性に満ちた物語は、最終盤の9分間にすべてが明らかになります。

少年の心の闇に射し込む、ひとすじの光

ルイの9番目の人生(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.

アンソニー・ミンゲラが本作の映画化を熱望したのは、おそらく予想を超えた物語の意外性だけではなく、ルイが幼くして理解し、背負ってしまった事実の切なさに惹かれたのではないでしょうか。

作品の謎がとけ、その結果、ルイが抱えた哀しみの深さを感じたとき、観客は原作に心を奪われたアンソニー・ミンゲラ同様、大きなカタルシスを味わうことでしょう。そして、少年のこれからの幸せを祈らずにはいられなくなるはずです。多くは語りません。しかし、その余韻こそが、本作の真の魅力なのです。

▼Information
『ルイの9番目の人生』
http://louis9.jp/
1月20日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、ほか全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.19 スパイ映画の熱狂再び『キングスマン:ゴールデン・サークル』
◆vol.18松岡茉優の才能が輝く『勝手にふるえてろ』
◆vol.17 不寛容の時代に生きるすべての人へ『希望のかなた』

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