映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.21 兄弟姉妹の複雑な関係を描く『犬猿』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。21回目は、2018年2月10日(土)公開の映画『犬猿』です。本作は、渋谷TOEIでご覧いただけます。

兄弟姉妹の複雑な関係

(c)2018『犬猿』製作委員会 (C)2018『犬猿』製作委員会

みなさんには兄弟姉妹はいますか? 私には姉がいるのですが、全然似ていません。感情豊かな姉とコミュニケーションを取るたびに、姉と弟でどうしてここまで似ていないのだろうと理解しがたく思うこともありました。

家族の中でも兄弟姉妹というのは、年齢や立ち位置の近さから比較されたり不公平感が募ったりと、愛憎が入り交じる関係性です。そんな複雑だけど離れがたい兄弟姉妹の姿を真正面から描き紐解いたのが『犬猿』です。

本作は『さんかく』や『麦子さんと』の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品です。見た目も性格も全く似てない、どこにでもいそうだけどちょっとだけエキセントリックな2組の兄弟姉妹。そんな彼らが出会うことで、兄弟姉妹ならではの 愛憎が浮かび上がります。ただでさえややこしい関係に恋愛やお金が絡むことにより、物語は大きく揺らぐことになります。

(c)2018『犬猿』製作委員会
(C)2018『犬猿』製作委員会

毎回、人間味がにじみ出る脚本に定評のある吉田監督の巧さは、本作のキャラクター設定からも感じられます。

強盗で逮捕されて刑務所に入っていた粗暴な兄、卓司(新井浩文)と、真面目に家族の借金をコツコツ返している気弱な弟、和成(窪田正孝)。印刷所を経営するほどしっかりものだけど体重管理だけは上手くいかない姉、由利亜(江上敬子)と、聞くだけで覚える英語教材に半年取り組むも全く効果が出ないズボラな美人の妹、真子(筧美和子)。

本作は、そんな兄弟姉妹の対比を性格や容姿の面で極端に表現。ユーモアと悲哀の両面を感じさせる絶妙 なタッチで、兄弟姉妹のつかず離れずの距離感を描きます。

違うように見えて、実は似ている

(c)2018『犬猿』製作委員会
(C)2018『犬猿』製作委員会

また、吉田恵輔監督の巧さは、世の多くの兄弟姉妹たちが気づいていない、本質的な共通点を指摘している点にもあります。それは、全く違うように見えて、実際は兄弟姉妹が似ていることです。

性格的に折が合わないのは、よくよく見つめると、どこか同族嫌悪的な部分があるから。自分の中にある嫌な部分を身近な兄弟姉妹の内側に見出すことで、自分を守るために相手を拒絶してしまうのです。

無意識的に拒否反応を示す兄弟姉妹の類似点を、本作はユーモアを交えながら、じっくりあぶり出します。劇中、和成がふとした瞬間に見せる、卓司を彷彿とさせる暴力 的な態度は、本人が自覚することないさり気なさでありつつ、観客が気づくようなサイズで描写されます。この小さな“気づき”を映画の中に巧妙に埋め込むのが、吉田流の脚本であり演出術なのです。

本作で描かれた2組の兄弟姉妹の顛末を見つめることで、知らぬうちにスクリーンのこちら側の家族関係まで浮き彫りにしてしまう吉田監督。私も本作を観ることで姉との共通点を見出してしまいました。彼の人間の本質を描く才能を、是非、渋谷の兄弟姉妹のみなさまにも堪能して欲しいのです。

▼Information
『犬猿』
http://louis9.jp/
2月10日(土)テアトル新宿、渋谷TOEIほか全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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