才能の暴走?引きこもり皇帝のコレクション人生をのぞき見してみた

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渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアムでは、「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」が1月6日より3月11日まで開催されています。前回に引き続き、展覧会の世界観を解説いたします。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

ヨーロッパの大部分を治めた巨大な神聖ローマ帝国。ルドルフ2世はその皇帝にも関わらず、部下に政治を任せ、城にこもって収集・研究活動に勤しむほどのスーパーオタクでした。今回の展覧会は、そんな彼が人生をかたむけた芸術と科学の世界を堪能できます。

皇帝の知的好奇心は無限大。
彼が「驚異の部屋」に収集したのは、動植物、人工物、鉱石から宝石、機械、メダルや古銭。そして絵画に描かれたものまで含めば庶民の生活(社会)、寓話・神話など、ありとあらゆるものです。彼はなぜこれらをコレクションしたのでしょうか。

その謎を解き明かすために、ルドルフ2世が収集品で「なにをしてきたのか」、彼の行動を追ってみたいと思います。

■まるで陳列棚!アイディアで芸術品へと昇格した記録画

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展ルーラント・サーフェリー[原画]クリスペイン・ド・パス[彫版]ロベルト・ファン・フルスト[彫版]「絵画術・素描術の光シリーズ」《2匹の鹿と1匹のダマジカの後ろ姿》、《3頭のラクダ》、《鹿とトナカイ》1628-1636年 エングレーヴィング・紙 プラハ国立美術館(チェコ共和国)

コレクションを保管していたプラハ城には、今でいう動物園や植物園があったといわれています。しかし、命あるものは死から免れられません。

もちろん剥製という手もありますが、半永久的にコレクションするために皇帝が選んだ記録・保管手段は絵画でした。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展ヤン・ブリューゲル(父) 《陶製の花瓶に生けられた小さな花束》 1607年頃、油彩・板、ウィーン美術史美術館 ©KHM-Museumsverband

たとえばこの花卉画には、本来別々の季節に咲く花が、小さな器には収まりきらないほどの量を生けています。絵画上部の花なんて宙に浮いているようで、「ありえない!」なんて顔をしかめる人も出てきそう。

ではこの一枚の絵を、コレクションの陳列棚として見るとどうでしょうか?
品々を最も美しい状態で飾れるように、角度、調光、ポーズに心が砕かれた陳列棚は、収集家にとってミュージアムの一面に相当します。ヤン・ブリューゲル(父)は一年以上の歳月をかけて、四季の花々を画面に生けて、後世の人々も平等にその美を鑑賞できるようにしたのです。

当時主流の写実主義をもって動植物を描写して、生き物を半永久的にアーカイブすることに成功します。しかし、ルドルフ2世はどうやら宮廷画家に記録物以上のもの、つまり芸術品を求めたようです。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展ルーラント・サーフェリー 《動物に音楽を奏でるオルフェウス》 1625年、油彩・キャンヴァス、プラハ国立美術館、チェコ共和国 The National Gallery in Prague

新世界からやってきた動物たちに囲まれる人間は、ギリシャ神話の登場人物・オルフェウス。毒蛇に噛まれて死んだ妻を冥府から連れ戻すために、竪琴の音色で冥界の人々を懐柔した竪琴の名手ですが、当時のヨーロッパ絵画の主題によく選ばれていました。

宮廷画家にとって、珍品が集まる刺激的な城はアイディアの巣窟。特にサーフェリーは動物や鳥、花でにぎわう風景画に、しばしば聖書や神話のテーマを結びつけて表現の幅を広げ、絵画を芸術へと昇華させていったのです。

■本音と建て前?神秘を描いたら「卑猥」と敬遠された寓意画

突然ですが、もともと絵画はなんのためにあるのでしょうか。
皇帝は当時、人々の心や魂など根本に訴えかけられる最適なメディアとして捉え、宮廷画家に作品を創作する上でこの世をつくりだした神の神秘性や謎に立ち向かわせました。

神話を描いていると画家は、まるで海に潜るようにどっぷりとその世界に浸かります。神々がなにを考えていたのか、それを人間たちに伝えるにはどうしたらいいか、絵画をもってメッセージを伝えようとしたのです。

「そんな高貴なことを考えるなんて皇帝すごい!」となる人も多かったのでしょう。皇帝万歳のメッセージが込められた作品も多く展示されています。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展ジュゼッペ・アルチンボルド 《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》 1591年、油彩・板、スコークロステル城、スウェーデン Skokloster Castle, Sweden

アルチンボルドの作品で使われたモチーフは二つ、野菜果物で表現されたルドルフ2世です。「よく皇帝が許したな」と感じる遊び心溢れた肖像画ですが、題名通り、皇帝はローマ神ウェルトゥヌムス像を重ねられ、四季を治めるほどの権威と力をもつ皇帝万歳!と賛辞しているのです。

もうひとつ作品がありますが、注目はそこに描かれたセクシーな女性たちです。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン《ルドルフ2世の治世の寓意》1603年、油彩・キャンヴァス、プレモントレ修道会ストラホフ修道院、プラハ、チェコ共和国 Strahov Monastery-Picture Gallery,Prague

この寓意画にいる女性たちは学問・豊穣・平和・正義の女神で、その内学問の女神が鎧を着た戦争の神を遠ざけようとしています。女神たちの足元にはハプスブルク家の紋章があり、平和と文化的な発展をもたらすルドルフ2世を讃える作品として作成されたことがわかります。

とはいえ、女性たちの上半身がはだけていますね。展覧会後半にはなまめかしい女性たちの姿が増えますが、それらは皇帝の「好み」で描かれたものもあったようです。生涯独身を貫いた皇帝は(私生児はおりますが)二次元女性のほうに魅力を感じていたのでしょうか。

しかし皇帝死後、それらの官能的な作品は親族からは「卑猥!」とされ、優先的に画商に売り払われていたそうです。なんとも悲しいエピソード。

■皇帝の評判を挽回!?時の人を味方につけてなしえた偉業

皇帝のイメージを挽回するために、彼の偉業をご紹介します。

皇帝の好奇心から生まれた「驚異の部屋」は、プラハをヨーロッパの芸術だけでなく科学においても一大中心地に発展させました。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展作者不詳 《デンマークの天文学者ティコ・ブラーエの肖像》 1596年、油彩・キャンヴァス、スコークロステル城、スウェーデン Skokloster Castle, Sweden

それを物語るのが、天文学者チェコ・ブラーエ、ヨハネス・ケプラーなどを宮廷に招聘して作成した天体表「ルドルフ表」。諸惑星位置の推算など、ケプラーの法則に基づいて計算された数値は従来の星表の30倍ほどの精度を持ち、天文学・占星術どちらにも役立つ書として評価されました。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展ヨーハン・ガブリエル・ドッペルマイヤー『最新天文図帳』1742年書籍 千葉市立郷土博物館、ペトルス・アピアヌス『宇宙形状誌(コスモグラフィア)』1544年 書籍 千葉市立郷土博物館、ペトルス・アピアヌス『天文学教科書』1540年 書籍 千葉市立郷土博物館

同じ星を読むものとして当時の天文学は、現代で占いの分野に属する占星術と不可分な関係であり、権力者たちはもっぱら未来を読み解く占星術に投資していたようです。

そのような中、異端児・ルドルフ2世は近代化学へと発展を遂げる「錬金術」研究に没頭するほど、天文学への理解がありました。結果ルドルフ表を生み出し、天文学をより科学的なものへの導く役割を果たしたのです。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

ありとあらゆるものを集めたルドルフ2世のコレクション「驚異の世界」。
生涯コレクションと研究に没頭した根底には「この世にある謎を解き明かすこと」がありました。その熱量はユニコーンの角のまがいもの(クジラの仲間・イッカクの牙)にまで手を出してしまったほど。

ヨーロッパと他地域の違いはどこか。
神はどうして語りかけてくるのか。
金はどのように生まれるのか、つくることができるのか。
星の位置と運命の関係性は。星はなにを語るのか。

……皇帝がこのような疑問を実際に浮かべたのかわかりません。収集した品々は、この不可思議な世界を解き明かすために必要な道具だったように感じられます。

答えを導き出すためにブレーンとなる知識人を囲み、彼らの底知らずの探究心に自らをも奮い立たせ、研究・学問、そして芸術を発展させていったのです。

研究者としての使命感か、少年の頃から追い続けていた夢なのか、はたまた才能の暴走か。

「驚異の世界」を通じて、ルドルフ2世が灯し続けた情熱に触れてみませんか。

【開催概要】
開催期間:2018/1/6(土)-3/11(日)
*2/13(火)のみ休館
開館時間:
10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)
URL:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_rudolf/

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