映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.23 原作ファンも唸る最新作『ちはやふる -結び-』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。23回目は、2018年3月17日(土)公開の映画『ちはやふる −結び−』です。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

原作ファンも唸る、最新作

(C)2018映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

今、『アイアンマン』や『スパイダーマン』など、世界中で人気漫画が映画化されています。実際非常に人気がありますし、渋谷のみなさんも多くの方が目にしているでしょう。

漫画の映画化は、単純に“ネタ枯れ”の面もあるでしょうし、既に認知度が高くファンがいる原作を映画にすれば、最低限のビジネス的な面を担保できるということもあります。

ただし、何でも人気漫画を映画化すればいいというものではありませんし、そもそもそうした漫画には往々にして熱心なファンがついています。「原作のイメージが崩れるため実写で映像化してほしくない」という心情から反発を受けることも少なくないのです。

しかし、かるたを題材にした人気漫画「ちはやふる」の実写映画『ちはやふる』シリーズは、そんな難易度の高い漫画原作の映画化において、質実ともに成功した例なのです。

(C)2018映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

今回ご紹介する『ちはやふる −結び−』は、『ちはやふる 上の句』『ちはやふる 下の句』に続く、シリーズ第三弾にして完結編。同シリーズは、綾瀬千早というかるたに熱中する少女と、彼女を取り巻く少年少女たちの青春物語です。

千早たちが仲間を募って高校にかるた部を設立し、全国高校かるた大会に挑む様子を描いたシリーズ2作で一度は映画が完結しました。この2作は、映画ファンのみならず原作ファンをも唸らせる、予想を上回る成功をおさめました。

その結果、追加で3作目『ちはやふる –結び−』が製作されることになったのです。しかし、一度は前後編で完結するように構成された物語を再構築して3部作にするのは2作の完成度が高い分だけ難易度が高いのですが、本作はその問題を見事に解決しています。

(C)2018映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

完結したはずの作品に意味を持たせる脚本の妙

(C)2018映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

3作目としての本作の上手さは、脚本にあります。特に、時間経過をうまく使っているのがポイントでしょう。1作目と2作目では、チームを結成した彼らの友情の変化を前提に成長を描きました。

本作では、2年の月日が流れて千早たちは高校3年生。彼らの高校は全国でも指折りの強豪校として知られています。千早自身もまだまだ未熟だった原石の状態から、かるた女王である“クイーン”への挑戦権に手が届くところまで成長し、前2作からの技術的に大幅な進化を見せています。

つまり、前後編から想定される延長線上に物語を置かずに一気に別の状態を描くことで、一度、前2作から切り離すことに成功しているのです。そこに寄与するのが2年という時間経過で、月日が流れたことによってかつての状況を前向きにリセットしています。これは脚本の妙と言えるでしょう。

(C)2018映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

また、本作で新たに登場するキャラクターの見せ方が上手いのも効いています。かるた界に絶対王者として君臨する周防久志。彼は、劇中何度も繰り広げられる激しいかるたの試合の中、極めて静かな、しかし誰よりも速いかるたで、圧倒的な強さを際立たせることに成功しています。

さらに、もうひとり、千早の強力なライバルとなる準クイーンの我妻伊織も、2作で活躍したクイーンの若宮詩暢との冒頭での戦いや負けん気の強さでキャラクターを立たせて、3作目から登場したとは思えない存在感を示しています。そしてどちらのキャラクターも、敵性要素を持ちながらもあえて作品のコメディリリーフとしての役回りを与えられているのが秀逸です。

前作でのライバル、若宮詩暢もそうでしたが、笑いを担当することで観客への共感度を高めてキャラクターの浸透度を上げています。他の作品ではあまり見ることのない、この印象的なキャラクターの根付かせ方が本作の魅力なのです。

(C)2018映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社

そして、一度は物語を完結させるつもりで制作された『ちはやふる 下の句』を観た観客が気になるのは、追加で完結編となった本作の行く末でしょう。

『ちはやふる 下の句』の最終盤に描かれた名人戦とクイーン戦に繋がる必然性を、本作は意外な形で表現しています。完成度の高いこのシリーズにおいて、唯一少し唐突と感じた『ちはやふる 下の句』のラストが、本作の展開によって正当性を与えられたのです。

どこか強引に製作された印象のある『ちはやふる –結び−』が、シリーズとして明確な意味を持ったのは、まさにこのラストへの道筋の正しさにあるのです。

▼Information
『ちはやふる –結び−』
http://chihayafuru-movie.com
3月17日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズ六本木ほか全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.22 驚異の長回し74分『アイスと雨音』
◆vol.21 兄弟姉妹の複雑な関係を描く『犬猿』
◆vol.20 9年間で9度死にかけた少年の秘密『ルイの9番目の人生』

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