映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.24 報道の自由を“今こそ”問う『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。24回目は、2018年3月30日(金)公開の映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』です。社会的メッセージが込められた作品を“今”だからこそ渋谷のみなさんに見て欲しい、そんな思いでお届けします。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

報道のあるべき姿とは何か

『スポットライト 世紀のスクープ』という映画が2016年のアカデミー賞作品賞を受賞したのをまだ覚えている人もいるでしょう。同作は、キリスト教の司祭たちによる児童の性的虐待を地方紙が告発した衝撃の実話を映画化したもの。聖職者によるタブーともいえるこのネタを、正義を貫くという姿勢で裏を取り報道したチームの奮闘を描き、報道のあるべき姿を世界に示しました。

そして2018年、アカデミー賞作品賞に再び、報道のあるべき姿勢を示す作品がノミネートされました。それが『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』です。

CAP:(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

舞台は1971年のアメリカ、ワシントン。米国政府は、ベトナム戦争が敗色濃厚となっている状況にもかかわらず、国民に真実を隠してどんどん若者を泥沼の死地に送り込んでいきます。

そんな中、政府機関によるベトナム戦争の機密調査レポートがニューヨーク・タイムズにリークされます。当時のニクソン政権は、ニューヨーク・タイムズに圧力をかけて、国家機密の暴露は国の利益を損ねるとして報道規制を実施。しかし、それを知った地方紙であるワシントン・ポストがリスクを取って動き出すのです。

CAP:(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

本作で描かれているものは、報道の自由のあるべき姿。たとえどんなに強大な権力を大統領や政府が持っていたとしても、合衆国憲法によって報道の自由は守られ、国民は政府にとって不都合な真実であっても知る権利があると訴えます。

そして、当時の気骨ある人々の奮闘によって、権力側の都合のいいように国民をコントロールしようとしたニクソン政権の欺瞞が暴かれ、この後、政府による盗聴スキャンダル、ウォーターゲート事件が起こります。それによって、ニクソンは辞任に追い込まれていくのです。驚くべきことに本作は実話です。

ちなみにウォーターゲート事件は、かつて、ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマン主演の『大統領の陰謀』という作品でも描かれています。本作はその端緒ともいえるニクソン政権の揺らぎを映し出しているのです。

「今やるべき」で作られた映画

CAP:(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

本作の布陣は、現在の映画界で考え得る最高レベルの組み合わせ。監督は、説明不要のスティーブン・スピルバーグ。社会性の強いメッセージを込めながら、エンターテインメントとしても成立させる見事な手腕を発揮しています。

また、出演者も豪華。会社を守るべきか報道の自由を守るべきかで揺れるワシントン・ポストの発行人キャサリン・グラハム役にメリル・ストリープ、政府の圧力に立ち向かう骨太な編集主幹ベン・ブラッドリーにトム・ハンクスというアカデミー賞受賞コンビを迎えています。

世界でもトップクラスと言えるこれだけのメンバーを揃えながら、本作は企画、撮影から公開まで、通常では考えられないほど短い期間で製作されました。それは現在、猛威をふるうトランプ政権に対して、映画界から痛烈なメッセージを投げかけるためです。

事あるごとに報道に圧力をかけるなど、国民の知る権利をないがしろにする傾向のあるトランプ大統領。それに対するスティーブン・スピルバーグやメリル・ストリープ、トム・ハンクスたちのスタンスがこの映画には託されています。だからこそ、先々ではなく「今やるべき」と判断して一気に作り上げ、こうして公開までこぎ着けたのです。

現在の映画製作の計画からすると、撮影プランとして非常にリスクがあるものだったといえます。それをここまでの完成度に仕上げたのは、超一流のキャストおよびスタッフの力量が合わさった成果といえるでしょう。

CAP:(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

本作で描かれた報道人たちの勇気は、スクリーンを見つめる我々を奮い立たせます。そこに映っているものは、自分たちがやるべきことをやり遂げるというシンプルだけど潔く力強い姿。映画の物語の内側でも、映画を作る外側でも、正義を貫く人々の姿勢はきっと多くの人の心を突き動かすはず。

本作は、報道の正義を描いた作品ですが、この世界に生きるすべての人々の心を勇気づけ、今何をすべきなのかを伝えてくれるのです。

▼Information
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
http://pentagonpapers-movie.jp/
3月30日(金)TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー
TOHOシネマズ 日比谷にて3月29日(木)特別先行上映

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.23 原作ファンも唸る最新作『ちはやふる -結び-』
◆vol.22 驚異の長回し74分『アイスと雨音』
◆vol.21 兄弟姉妹の複雑な関係を描く『犬猿』

※記事の内容は公開時点の情報です。価格等の情報については変更している可能性がありますのでご了承ください。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加