髪とファッションで渋谷の「空気」を作る/メンズヘアカルチャーマガジン『S.B.Y』編集長・ミネシンゴインタビュー

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渋谷に関わるキーパーソンにお会いして、渋谷発の文化の潮流に迫るこのインタビュー。今回は、渋谷のメンズヘアカルチャーマガジン『S.B.Y』の編集長であるこちらの方にお話を聞いてきました。

話を聞いた人:ミネシンゴ
1984年生まれ、神奈川県出身。夫婦出版社アタシ社代表。「美容文藝誌 髪とアタシ」、渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン「S.B.Y」編集長。 渋谷のラジオ「渋谷の美容師」MC。web、紙メディアの編集をはじめ、ローカルメディアの制作、イベント企画など幅広く活動中。

渋谷区内の人気サロンに所属する15人の美容師たちが、渋谷の「空気」を作ることをテーマに、メンズファッションの今をコンセプチュアルに表現したこの雑誌。

一冊通して、すべての写真をひとりの写真家が撮り下ろしているのが特徴で、創刊号の写真はファッション業界などで活躍する新進気鋭の写真家・嶌村吉祥丸(しまむら・きっしょうまる)さんが手がけています。

それぞれのスタイルを作ったユース世代の美容師たちへのインタビューも見どころのひとつで、「へえ、最近の美容師さんってこんなことを考えているんだなあ……」という発見が興味深い、ちょっと新しい雰囲気の雑誌です。

▼【渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン】S.B.Y 00https://kamitoatashi.fashionstore.jp/items/8879331

編集長のミネさんは、神奈川県の南端に位置する三浦市三崎在住。夫婦出版社「アタシ社」を立ち上げて、美容師たちの思想、哲学、美意識を伝える人気のリトルプレス『美容文藝誌 髪とアタシ』や、三浦半島に生きる人々を主役にした写真集『南端』など、さまざまな出版物を刊行しています。

美容師から美容雑誌編集者になり、その後美容事業の営業も経験した業界のエキスパートであるミネさん。彼はなぜ今、渋谷に特化して新たな雑誌を立ち上げたのでしょうか。ライターの根岸達朗が、文化の発信者としてのミネさんの美意識に迫りました。

尖った渋谷が見たい

根岸:『S.B.Y』拝見しました。美容師の美意識って興味深いですね。お客さんの要望に合わせて髪を切ることだけが美容師の仕事じゃないし、自己表現をしてなんぼの世界なんだなあと。

ミネ:美容師それぞれにスタイルはありますけど、個性を発揮して、業界のトップに昇り詰めようとがんばっている美容師さんは多いです。でも最近は、良くも悪くもお客さんのいいなりになっている美容師が増えている気がします。お客さんが咳をしたらすぐにお茶を出せなんて教育するところもありますし、技術力や表現力以前に、コミュ力が求められる時代なんですよ。

根岸:へえ、コミュ力。まあ、お客さんもそういうサービスを求めているから、仕方ないのかなあ。

ミネ:変わりましたよね。昔はサービス以前に、渋谷はとくに個性的な髪型にしてくれることを求めるような尖ったお客さんも多かったですからね。もちろん美容師も自分のスタイルをはっきり持っている人も多くて、お客さんの要望を一応は聞くけど、「そんなの絶対に似合わないからやめた方がいい」とか平気で言っちゃう人もいました。お客さんも美容師も尖っていた時代があったんです。

根岸:へえ、おもしろいなあ。それはやっぱり90年代後半の「カリスマ美容師」全盛時代ですか?

ミネ:そのあたりは面白かったですよね。例えば、SHIMAの奈良さん(奈良裕也さん)とか、もう少し年代が上のところで言えば、SIDE BURNの太地さんとか。そういうカリスマ的な人たちというのは、まず自分のスタイルがあって、そこにお客さんが憧れて付いてきているんです。

今は美容師にコミュ力が求められる時代だけど、僕はお客さんも美容師もちゃんと尖っていた時代が好きです。だから、若い美容師は自分の美意識を信じて、どんどん個性的な表現にチャレンジしたらいいと思っているんですよ。

根岸:それでいうと、今回の『S.B.Y』はまさにこれからを担うユース世代の若い美容師たちの美意識がぶつかり合った雑誌になっています。渋谷に特化してメンズのヘアカルチャーマガジンを作ろうと思ったのは、どういう思いがあったんですか?

ミネ:まず、一般的なメンズのヘアカタログが単調でつまらないと思ったんですよね。僕はそういうヘアカタログに嫌気がさしていたので、だったら新しい雑誌を自分で作ろうということでこれを立ち上げました。

根岸:いいと思えるものがなかったから自分で作ったと。

ミネ:はい。あと、時代がローカルの価値観に注目するなかで、ひとつの街に特化したヘアカタログもあったら面白いなと思ったんです。それを美容業界のメッカとも言える渋谷区でやってみたかった。

根岸:へえ。やはり美容師にとって渋谷区は特別な街なんですか?

ミネ:僕にとってはそうですね。昔、美容師を目指そうと思ったときに、渋谷区が日本で一番イケていると思っていましたし、実際、そこにいる人たちがトレンドを作っていました。それは美容師をやめて、美容業界誌で編集者をしていたときにもそう思いましたね。港区でもなければ、目黒区でもなくて、美容の中心はやっぱり渋谷区だなと。

根岸:渋谷区ってほかのところと何が違うんでしょう。

ミネ:サロンの数が圧倒的に多いんです。渋谷区だけで1000軒ほど。狭いエリアにこれだけの数が密集しているところは、世界でも稀だと思います。同じビルに違うが三つも入ってるとか、すごいですよね。そういうエリアでトップを目指そうとしのぎを削っている美容師たちが、街をテーマに何を表現するか見てみたいという気持ちもありました。

根岸:オリンピックに向けて再開発も進んでいるし、おもしろいタイミングかもしれません。

ミネ:カルチャー的にも変化の過渡期ではあると思います。ただ、そういうなかで美容の先進地域としての渋谷がどんどん均一化しているのも感じていて。だからこそ、渋谷はこんなもんじゃない、もっと尖っていいという思いも、この雑誌には込めたかったんです。

根岸:なるほど。とはいえ、コミュ力を発揮する美容師が増えているのも、この時代の「空気」ではあるんでしょうね。

ミネ:そうですね。もちろん尖ってほしいとはいっても、美容師にコミュ力が求められてきた流れも理解できます。尖りすぎていた反動や、美容院数の増加によるサービスにおいての差別化も必要になってきました。それによって、美容師ができることって髪を切ることだけじゃないよね? 髪やファッションを通じてコミュニティを作ることもできるよね? というように、美容師のあり方も変化してきたと思います。

根岸:ただ髪を切ればいいという時代ではなくなっているのかもしれませんね。美容院も少しずつその機能が拡張しているという話も聞きます。

ミネ:美容院って「サロン」っていうじゃないですか。中世ヨーロッパでサロンと呼ばれているところは、貴族たちがお茶をしながらダベって最近どう?みたいなことをやる社交の場だったんですよね。ヘアサロンという言葉もそこからきている以上、そこはやっぱりコミュニティであることが前提なんです。美容院は、情報が集まる場所でもあるし、文化を発信する場所。

だからこそ、そこにいる美容師がお客さんの言いなりで髪を切るだけになっていたりとか、お客さんの顔色を伺って当たり障りのないことばかり言うようなサービス業をしてたのではもったいないと思っていて。

美容師は美容というツールでさまざまに自己表現できる魅力的な仕事をしているのだから、もっと自分の美意識と向き合ってやりたいことをやって欲しいですね。

「美」と「粋」の関係

根岸:ミネさん自身の美意識も気になります。以前美容師をされていたんですよね?

ミネ:そうですね。僕はあんまり昔から変わっていないんですけど、髪型でもファッションでも、粋を知る人がかっこいいと思っています。粋をもう少し分解すると、まず媚びてないこと。自分の好みがはっきりしていて、同調意識がないくらいでいいと思ってます。あと、ファッションに何らかの外しを作れることも大事。外しというのは、遊びと言い換えてもいいかもしれませんね。

根岸:ふむふむ、なるほど。

ミネ:美容師の仕事について言えば、例えばスタイリングをめちゃくちゃ作り込んで、かっこつけましたよーっていう感じは、やっぱり粋とはズレていると思っていて。それよりも風がぶわーっと吹いてきて、髪が顔にまとわりついても、ああなんかかっこいいな……って思えるスタイルが僕のなかでの粋なんです。

例えば、ピースの又吉直樹さんとか、天パなのかパーマなのかわからないけど、又吉さんだなって感じがばちっとハマってますよね。俳優の竹中直人さんも結構髪が薄くなってますが、金髪ショートとヒゲのスタイルがとても似合っているし、一目で竹中さんだなと思える潔さがあってかっこいい。

根岸:確かにそのあたりの人たちにはナチュラルなかっこよさがありますね。なるほど。では、今回の雑誌に登場している美容師たちのスタイリングのなかで、ミネさんが特に粋だなあと感じたのは?

ミネ:表紙にも使っているんですが、HEAVENSの世良田奏太さんのスタイリングは一番ぐっときましたね。坊主頭のモデルとモシャモシャ頭のモデルの組み合わせ。これが彼の考える今一番渋谷でかっこいいスタイルなんだっていう。

根岸:絶妙なバランス感覚だなあ。

ミネ:これの何がいいって、やっぱり外しがあるところですよね。もはや粋なのかどうかすら分からなくなっちゃうくらいですが、とにかく外れまくっていて面白い。その混沌さが、僕には正しく渋谷的だと感じたんです。

吉祥丸さんの写真もいいですし、そこに美容師の美意識がぶつかっているところが、この雑誌の面白いところでもあると思っています。

カルチャーを作る人

根岸:『S.B.Y』の今後が楽しみです。

ミネ:ありがとうございます。少しずつ次号の準備も進めているので楽しみにしていてください。地道にやり続けることで、僕はカルチャーを作っていきたいので、しばらくは売れなくても作り続けていきますよ(笑)。

根岸:カルチャーですか。壮大な夢があるんですね。

ミネ:もちろん売れてくれればいいんですけど、すぐに結果が出るものでもないと思っています。『髪とアタシ』を作ったときも最初から大きな反響があったわけではありませんでした。でも、自分のやってることには確かさを感じていますし、そうである以上はやり続けることに意味があると思っていて。

根岸:大事ですよね、続けること。

ミネ:僕は美容師を経験して、美容雑誌の編集者を経験して、美容の営業も経験しました。業界では異色のキャリアですし、あらゆる角度からこの業界を見てきました。だからこそ、自分にしかできない表現があると思っていて、それが『髪とアタシ』であり、今回の『S.B.Y』なんです。

ミュージシャンが自分の作った音楽が売れないからミュージシャンをやめるって多分ないですよね。音楽が好きだからミュージシャンをやるんですよね。それと同じで、僕も本が好きだから本を作り続けたい。自分が信じていること、自分にしかできないことで、これからもずっと作り続けていくんだと思います。

▼【渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン】S.B.Y 00
https://kamitoatashi.fashionstore.jp/items/8879331
→青山ブックセンター、代官山蔦屋書店ほか全国書店で展開中。
▼美容文藝誌 髪とアタシ
https://kamitoatashi.fashionstore.jp/
▼S.B.Y Twitter
https://twitter.com/sbyshhbooya

書いた人:根岸達朗(ねぎし・たつろう)
ライター/哲学系フリーペーパー『欲望と妄想』を作ってます/Twitter:@onceagain74

写真:小野 奈那子(おの・ななこ)
http://nanakoono.com/

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