映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.29 いじめに立ち向かう少年の物語『ワンダー 君は太陽』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。29回目は、2018年6月15日(金)公開の映画『ワンダー 君は太陽』です。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

いじめに立ち向かう10歳の少年の物語

(C)2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

子供には、得てして残酷なところがあります。社会経験が少なく純粋だからこそ、他者に対して容赦なく接することもあるでしょう。また、学校という狭いコミュニティで生き残るために、自分よりも弱い者を見つけ出しては共通敵として叩くことで、自分の身を守ることも往々にして起こります。

これらはいじめの一因であり、防ぐことがなかなか難しいのが現実です。しかし映画は、そういった社会的な問題と正面から向き合い、物語を通じて解決方法や心得を説くことがあります。今回ご紹介する映画『ワンダー 君は太陽』は、そんないじめに立ち向かった10歳の少年の、自立と成長の物語です。

本作の主人公は、オギーことオーガスト・プルマン。宇宙飛行士に憧れ、『スター・ウォーズ』が大好きなとても聡明な少年です。オギーは、彼のことが大好きな両親と姉に囲まれたごく普通の10歳の少年なのですが、ひとつだけ人と違うところがあります。それは遺伝子上の疾患を抱えており、人とは異なる顔で生まれてきた点です。

そのため、彼は学校に通うことなく自宅学習をし、ずっとひとり学んできました。そんな彼が、5年生の年齢になって、初めて学校に通うことになります。しかし、子どもは残酷なところがあると前述しましたが、外見上の違いは子どもに大きなインパクトを与えます。オギーは入学した途端にいじめっ子の標的になり、徹底的に避けられてしまうのです。

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本作の軸になるのは、このオギー少年の葛藤と成長です。彼は、陰湿ないじめにあいながらも、自身が備え持つ静かな強さと、彼の全面的な味方であり続ける家族の献身的な支援によって、折れそうな心を奮い立たせていじめに立ち向かっていきます。そんな彼の勇気溢れる堂々とした姿に、彼を避けていた周りの生徒たちも徐々に自分たちの偏見に気づいていきます。

いじめがひとつのモチーフとなる本作ですが、決して暗く沈み込みません。本作を包むウィットに富んだ描写が、作品のトーンに大きな影響を及ぼしています。

例えば、本作には『スター・ウォーズ』のあの有名キャラクターたちが登場します。『スター・ウォーズ』はオギーが大好きな映画。オギーの想像が現実と融合した結果、ある種のファンタジー表現として本作にキャラクターたちが登場し、観客をニヤリとさせます。これは権利的に考えても異例なのですが、この作品のメッセージが権利者を動かしたと言えるでしょう。

また、オギー自身のキャラクターも本作の空気の心地よさに貢献しています。オギーは、遺伝子疾患を抱えながらも、家族の愛情によって、明るく機転のきいた少年に成長しています。

学校に通うようになっていじめられるものの、彼の知性とユーモアが彼自身を救うと同時に、作品自体を重苦しい空気から解放していきます。それを体現した主演の天才子役、ジェイコブ・トンブレイの演技は実に見事で、傷つきながらも跳ね返すしなやかさを繊細に描写しているのです。

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さらに、本作が素晴らしいのは、登場人物それぞれが抱えた悩みに光を当てている点でしょう。オギーが葛藤しつつも成長するのは必然の展開ですが、本作で悩んでいるのは彼だけではありません。オギーに比べれば、一見すると何ひとつ悩みもなさそうな彼の家族や友人もまた、彼らなりに問題を抱えています。

本作は、特に、オギーの姉、ヴィアの葛藤に注目しているのが素晴らしいです。家族から“手のかからない姉”として接してこられた彼女もまた、両親に負けないオギーへの愛情とともに、自分の人生の主役は自分である、という当たり前の意識を抱えています。そんな両親に理解されない隠れた哀しみを、きちんと見つめて昇華させているのが、本作の本質でしょう。

その点において、本作の脚本と監督を担当したスティーブン・チョボスキーの功績は大きいです。彼は、『ウォールフラワー』という傑作青春小説を執筆し、映画化された同作の監督も担当しました。同作でも、主要登場人物3人それぞれの悩みや葛藤を置き去りにすることなく、きちんと見つめて繊細に描いています。つまり、スティーブン・チョボスキーの作品には、すべての人の人生を見つめる視点の優しさがあるのです。

いじめや偏見を描いた作品は、観ているのがつらくなるものが多いのですが、本作は、つらさ以上に観客を前向きにさせるエネルギーとユーモアと感動に満ちています。人との接点に疲れてしまった渋谷を道行く若者にこそ、是非観ていただきたい一本です。

(C)2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

▼Information
『ワンダー 君は太陽』
http://wonder-movie.jp/
6月15日(金)TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ渋谷他全国公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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