映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.43 「2018年・中井的ベスト“ナカデミー賞”」5作品を発表!

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。43回目は、2018年の総括として、中井圭が観た劇場公開作品の中から、特に素晴らしかったと考える5本をピックアップします。

「特に印象的だった」中井的ベストはこの5本!

 早いもので2018年もあっという間に最終盤になりました。2018年もたくさんの傑作が劇場公開され、筆者自身、この1年が一瞬だったように感じるほど、たくさんの映画を観ました。今回のコラムが1年の最後ということで、その中で自分なりに特に印象的だった傑作5本をピックアップしたいと思います。

2018年・中井的ベスト『君の名前で僕を呼んで』

誰かを好きになった感情の瑞々しさと美しさに包まれた本作は、2018年最高の恋愛映画だったと言えるでしょう。画面の奥行きを上手く使い、キャラクター同士の物理的距離感を心の距離感と連動させ、徐々に近づく演出も見事でした。また、LGBTをモチーフにしている作品として、決して特殊な状況ではないことを宣言し、高く評価されていることも、まさに現代を象徴した作品でした。

2018年・中井的ベスト『タクシー運転手 約束は海を越えて』

2018年、これほどまでに涙を流した映画はありません。韓国で起きた「光州事件」の裏側で芽生えたドイツ人ジャーナリストと韓国人タクシードライバーの間で芽生えた友情の実話を映画化した本作。ソン・ガンホ演じる利己的で無関心なタクシードライバーがお金のために向かった光州で目の当たりにした現実の悲惨さに心を痛め変化していく姿が、自分には関係のないことに徹底的に無関心を貫く現代人に刺さる一本になりました。改めて名優ソン・ガンホの演技力を再確認にする作品でもありました。

2018年・中井的ベスト『15時17分、パリ行き』

本作は、実験性に溢れた挑戦的な映画です。『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』など、近年、実話を映画化してきたクリント・イーストウッドがリアリティとは何かを追求した結果、極めて能力が高い俳優に演じさせるよりも、実際にその事件に関係した当事者を揃えて再現するアプローチを試みることで、映画におけるリアリティの概念を更新しようとしています。世界的に見ても実績を積み上げた高齢の作家が、今の時代で最も新しいことに挑戦している姿勢も素晴らしいです。

2018年・中井的ベスト『ブリグズビー・ベア』

本作のテーマは、多様性と寛容さ。たとえ自分に理解できなくても、何かに夢中になる人を頭ごなしに否定するのではなく、本気で向き合って肯定することが、歴史上最も多様性あふれる時代である現代を生きる上で、極めて重要な姿勢であることを提示します。その背景にあるのは、自分とは違う他者を認める寛容さでしょう。ブリグズビー・ベアというTV番組に没頭する主人公と彼を支える周囲の人々の姿を通じて、観客は現代を生きるヒントを学ぶのです。

2018年・中井的ベスト『スリー・ビルボード』

2018年に発表されたアカデミー賞作品賞は『シェイプ・オブ・ウォーター』でした。マイノリティに向けた愛ある姿勢が評価されたこの結果に異論は全くありませんが、作品としての質の高さという点では、『スリー・ビルボード』も決して引けを取らなかったと思います。特に、復讐や憎しみの連鎖を断ち切る、赦しについて真っ向から描いた本作の脚本は見事で、ラストショットの葛藤や迷いが人間の救いに繋がって、極めて深い余韻を残しました。残念ながらアカデミー賞作品賞は受賞できませんでしたが、中井圭によるナカデミー賞作品賞は、この映画にあげたいと思います。

以上、2018年で印象的だった5本の傑作をご紹介しました。1年間、本コラムにお付き合いいただきありがとうございました。2019年もまた素晴らしい作品に出会い、みなさまにたくさんご紹介できることを祈念しています。みなさまにとって2019年が素晴らしい年になりますように。良いお年を。

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「ぷらすと by Paravi」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.42 ディズニーが問う現代のコミュニケーション『シュガー・ラッシュ:オンライン』
◆vol.41 地獄の刑務所を生き抜く『暁に祈れ』
◆vol.40 「世界の塚本」に畏怖する『斬、』

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