映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.45 90年代は「今」に続く『チワワちゃん』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。45回目は、渋谷HUMAXシネマほかにて1月18日(金)公開の『チワワちゃん』です。

チワワちゃんの「不在」が伝えるもの

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

岡崎京子さんという漫画家がいます。

その作品の多くは80年代から90年代に生み出されたもの。岡崎さんは96年に交通事故で活動を休止せざるを得ない状態になりますが、今でも多くの人々が彼女の作品をリスペクトしてやみません。

日本の映画界ではこの数年、岡崎漫画を映画化する動きが続いています。例えば、蜷川実花監督の『ヘルタースケルター』(2012年)、行定勲監督の『リバーズ・エッジ』(2018年)など。

今回ご紹介する『チワワちゃん』もまた、岡崎さんが94年に発表した短編漫画を映画化したものです。

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

かつて仲間内でチワワちゃんと呼ばれていた女の子が、東京湾からバラバラ遺体で発見されます。

その事件について取材を受けたチワワちゃんの仲間のひとりであるミキが、チワワちゃんのことを仲間内に聞いてまわるのですが、だれもチワワちゃんのことをよく知らない。

チワワちゃんとは一体何者なのか。ミキは「実は誰も知らなかったチワワちゃん」を追い求めていきます。

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

岡崎さんの漫画で描かれるのは、若者たちの空虚感や不安感です。

何か手触りがあるものを求めながらも結局、実態を伴わない切なさ、虚しさが90年代を生きる若者たちのリアルな感覚。岡崎さんはその感覚を鋭敏な感性で描き、多くの若者たちの心をつかんだのです。

本作でも同様に、そんな若者たちの空虚感や不安感が描かれます。

自己を確認すべく仲間で群れて派手に生きていた若者たちが、あれだけ親密に同じ時間を過ごしていたにもかかわらず、誰も本当のことを知らないという現実。若者たちにとって「手触りがあった」はずのコミュニケーションの虚像を暴いていくのです。

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

本作で、チワワちゃんが自らを語ることはありません。何故彼女が死んでしまったのか。彼女は何を考えていたのか。仲間に対して何を思っていたのかなど、一切の情報が排除されています。

不在のチワワちゃんを追い求める。そのことを通じて、チワワちゃんから反射し投影される彼ら自身の姿を描いているのが、語り口の妙でしょう。

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

本作を監督したのは、二宮健さん。彼は現在27歳。作品の発表された90年代には若すぎて、おそらくリアルタイムではないでしょう。

しかし彼はこの原作に魅了され、映画化を熱望し実現しました。それは原作に描かれる若者たちの姿が、彼にとって、彼の生きる2010年代の今まで地続きであると感じられたからではないでしょうか。

筆者が本作を絶妙だと感じているのは、90年代という時代性を閉じたものにせず、今この瞬間にリプレイスしているその点です。

これまで岡崎さんの原作がさまざまなかたちで映画化されてきましたが、本作は最も生の感覚を持ち込んでいる作品と言えるでしょう。それが実現できたのは、二宮監督自身が、今この瞬間を生きる若者だからではないかと思うのです。

渋谷の若者たちもまた、青春を過ごす中でアイデンティティとコミュニケーションの悩みを抱えているのではないでしょうか。ぜひ、この岡崎さん原作の傑作を映画化した本作をご覧頂き、人生の手触りを再確認していただければと思います。

(C)2019「チワワちゃん」製作委員会

『チワワちゃん』
2019年1月18日(土)新宿バルト9、渋谷ヒューマックスシネマ他全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「ぷらすと by Paravi」「シネマのミカタ」TOKYO FM「LOVE CONNECTION」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.42 ディズニーが問う現代のコミュニケーション『シュガー・ラッシュ:オンライン』
◆vol.41 地獄の刑務所を生き抜く『暁に祈れ』
◆vol.40 「世界の塚本」に畏怖する『斬、』

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