映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.46 月に挑んだ男の孤独『ファースト・マン』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。46回目は、TOHOシネマズ渋谷ほかにて2月8日(金)公開の『ファースト・マン』です。

人類初の月面着陸に成功した男

人類による宇宙計画を描いた映画は、これまでいくつも製作されてきました。

最も有名なのは、ミッション中に事故を起こしたアポロ13号の奇跡の帰還を描いたトム・ハンクス主演の『アポロ13』でしょう。また近年では、「アポロ計画」の前段階として宇宙空間の有人飛行を実施した「マーキュリー計画」を題材に、その計画の影に存在した3人の黒人女性たちの活躍を描いた『ドリーム』も傑作として高い評価を得ています。

さらに忘れてはいけないのが、その「マーキュリー計画」に挑むべく、パイロットたちの孤独な挑戦を描いた、静かで熱い人間ドラマ『ライトスタッフ』。国家の威信と宇宙飛行士たちの命をかけたドラマが展開される宇宙計画は、常に映画として魅力ある題材なのです。

そして2019年、月面着陸を目指した伝説的なあの宇宙計画を描いた作品が日本で公開になります。それが『ファースト・マン』です。

(C) Universal Pictures

本作は、「アポロ計画」で人類初の月面着陸に成功したニール・アームストロング船長を描いた物語です。

60年代初頭、娘を幼くして亡くしたニールは、その寂しさを埋めるように、NASAの宇宙飛行士に応募し、ミッションに没頭していきます。ソ連との宇宙開発競争で後手に回った当時のアメリカで、彼は宇宙飛行士としてハードな訓練を重ね、仲間たちとの絆を深めていきます。しかし、宇宙への道のりは過酷で、彼の周辺で次々と悲劇が起こるのです。

本作を監督したのは、若き巨匠デイミアン・チャゼル。その名前よりも、『セッション』や『ラ・ラ・ランド』の監督、と言ったほうがピンと来る人が多いでしょう。

超一流のジャズドラマーを目指す男子学生、そしてハリウッドで夢をかなえようとする男女を描いてきた彼が、前作『ラ・ラ・ランド』でコンビを組んだライアン・ゴズリングと再び共闘して、伝説の月面着陸の史実に挑んでいます。

(C) Universal Pictures

本作は、宇宙計画に挑んだニール・アームストロングの知られざる内面をあぶり出します。彼に寄り添い、客観を排除した撮影により、彼から見たアポロ計画、切磋琢磨している宇宙飛行士仲間との友情と別れ、そして距離感を失いつつある家族を観客は見つめることになります。

そこに見えてくるのは、彼の抱えた孤独。次々と巻き起こる非常事態を淡々と受け入れる姿に、人間離れした超然さと悲哀を感じます。そんなニール・アームストロングを演じたライアン・ゴズリングは、機械のような冷静さに加えて、感情のわずかな綻びを見事に体現しています。

(C) Universal Pictures

そして、デイミアン・チャゼルといえば、やはり映画のラスト数分間に魔法をかける監督。『セッション』では、指揮者の指示を無視してアドリブでドラム演奏するシーン、そして『ラ・ラ・ランド』では、あり得たはずのもうひとつの人生を夢想するシーンを、ド派手かつドラマチックに描きました。

本作では、魔法がかかる終盤の重要なシーンをIMAX70ミリカメラで撮影しています。その結果、従来、彼がかけてきた魔法とは性質が真逆の、極限の静謐さを映画に与えています。それはもはや神々しさを感じる表現と言っても良いでしょう。できれば、監督の意図する効果を最大化するためにも、IMAXで体感していただきたい作品です。

『セッション』や『ラ・ラ・ランド』に熱狂した渋谷のみなさんにも、是非、大人の表現を手に入れたデイミアン・チャゼルの新作を堪能いただきたい。月に挑んだ孤独な男の、見ごたえのある人間ドラマを味わって欲しいのです。

(C) Universal Pictures

『ファースト・マン』
2019年2月8日(金)TOHOシネマズ渋谷、全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「ぷらすと by Paravi」「シネマのミカタ」TOKYO FM「LOVE CONNECTION」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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