映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.48 誰だってヒーローになれる『スパイダーマン:スパイダーバース』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。48回目は、2019年3月8日(金)公開の映画『スパイダーマン:スパイダーバース』です。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

アカデミー賞を受賞したスパイダーマン最新作

第91回アカデミー賞授賞式が行われ、作品賞は60年代のアメリカで吹き荒れる黒人差別を背景に、ふたりの男の友情を描いた人間ドラマ『グリーンブック』が受賞しました。同作の受賞は、近年のアカデミー賞を象徴するように、マイノリティへの目線を意識した作品が高く評価された結果でしょう。

また、長編アニメ映画部門でも、『シュガーラッシュ:オンライン』や『インクレディブル・ファミリー』、日本の『未来のミライ』など、並み居る強豪を打ち倒して、マイノリティを意識した作品が受賞しました。その映画が『スパイダーマン:スパイダーバース』です。

スパイダーマンは代表的なアメコミ作品として、日本でも非常に知名度が高いスーパーヒーローです。2002年以降、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』シリーズやマーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ、そしてマーベル・シネマティック・ユニバースの『スパイダーマン:ホーム・カミング』など、立て続けに6本も実写映画化されています。

近年、映画で描かれたスパイダーマンは、すべて主人公の青年ピーター・パーカーの物語で統一されています。しかし、コミックではピーター以外にも多様なスパイダーマンが登場します。本作『スパイダーマン:スパイダーバース』では、これまでの映画版の当たり前を覆し、多様なスパイダーマンたちが別の次元から時空を超えて登場します。そのアプローチは、本作の重要なテーマにリンクするのです。

本作の主人公は、従来のピーター・パーカーではなく、マイルズ・モラレス。彼は、グラフィティアートが大好きなヒスパニック系の少年です。ブルックリンにある進学校に通いながらも生きにくさを感じている彼が、スーパースパイダーに噛まれて超人的な力を手にします。突然与えられた力をコントロールできず戸惑う彼は、若きピーター・パーカーと、並行世界から時空を超えてやってきた中年のピーター・パーカーに出会うのです。

観客がまず驚くのは、本作のビジュアル面でしょう。グラフィティアートが好きなマイルズにリンクするような、ポップな絵とアニメーション。手描きとCGを組み合わせたような、独特のビジュアルの波に圧倒されます。

さらに、ぬるぬると動く現代のアニメーションに比べて、滑らかさをわざと損ねることで、コミックにおけるコマ間の目線移動を想起させます。また、別次元のスパイダーマンたちをそれぞれの原作のタッチに合わせた作画で描写し組み合わせることで、アニメーションだからこそ実現可能な世界観を構築しているのです。

そして、本作が現代において重要な意味を持つのは、ヒーローの一般化を描いた点でしょう。従来の主人公であるピーター・パーカーは白人の青年でしたが、マイルズは悩みを抱えたヒスパニック系の少年。彼はスパイダーマンの存在を外側から眺める、ごく普通の男の子でした。そんな彼がスパイダーマンたちと関わり、自らもスパイダーマンとして悪と立ち向かうことを選びます。それはヒーローだから特別な存在なのではなく、誰だって自らの意思で特別な存在になれることを表明する、極めて現代的な姿勢なのです。

本作は、とても情報量の多い作品です。これまで実写版で描かれてこなかった並行世界という概念に面食らうこともあるかもしれません。しかし、どこにでもいる普通の少年マイルズの物語に身をゆだねることで、気持ちよく映画の流れに乗れるでしょう。渋谷の若者たちにとって、バスケットシューズを履いたどこにでもいる若いスパイダーマンの物語を、自分たちの物語だと感じるに違いありません。

▼Information
『スパイダーマン:スパイダーバース』
http://www.spider-verse.jp/site/
3月8日(金)、TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「ぷらすと by Paravi」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。偶然の学校」などを主催。

◆vol.47 音声の向こう側へ『THE GUILTY/ギルティ』
◆vol.46 月に挑んだ男の孤独『ファースト・マン』
◆vol.45 90年代は「今」に続く『チワワちゃん』

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