映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.49 価値あるスローダウン化『バンブルビー』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。49回目は、2019年3月21日(木・祝)公開の映画『バンブルビー』です。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

ひと味違う『トランスフォーマー』の誕生

『トランスフォーマー』が実写映画化されてから22年が経過しました。同シリーズは4作品で約4,200億円と、巨額の興行成績を叩き出しています。

しかし、その優秀な興行成績とは裏腹に、作れば作るほど映画自体の評価は低迷していきました。脚本は無駄に複雑で冗長。どう変形しているのかさえわからない画面の情報量。火薬の量が多ければ多いほど話がよくわからなくなるシリーズとして、映画ファンからは酷評されてきた歴史があります。

同名アニメのファンで実写映画の1作目が大好きだった筆者も、近年のシリーズは少々お腹いっぱいで少し敬遠気味であったことを認めます。そんな『トランスフォーマー』シリーズの最新作として登場した『バンブルビー』は、良い意味で予想を裏切ってくれました。

© 2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO, TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2018 Hasbro. All Rights Reserved.

時代はさかのぼり、1987年。舞台は、サンフランシスコ郊外。面倒をよく見てくれた父親を亡くした悲しみが癒えず、家族とギクシャクしている18歳の女の子チャーリーは、ある日、廃品置き場からボロボロの黄色い車を見つけ、乗って帰ります。

しかしその車は自宅の車庫で突然人型ロボットに変形します。以前の記憶を失っているそのロボットは、人間であるチャーリーに怯えます。しかし、お互いに安心できる相手だと気づいた二人は、徐々に距離を縮めて、深い友情を築いていくのです。

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この物語を聞くと、ロボット同士の激しいバトルをド派手に追求してきた『トランスフォーマー』シリーズとはとても思えません。むしろ、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の80年代のSF作品『E.T.』を想起させます。

本作は、思春期の悩みを抱えて大人になりきれない少女が、科学の進んだ地球外生命体ながら無垢なロボットと交流する過程で少しずつ成長していく、青春映画としての濃度が高いのです。

『トランスフォーマー』シリーズの最新作でありながら、全く別の作品へとトランスフォームした展開に、正直驚きを隠せません。しかし、そこにこそ、良い意味でスローダウンした本シリーズの新たな魅力が詰まっています。

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また、本作は、87年という舞台設定を踏まえて、80年代文化をふんだんに取り入れているのも特徴です。音楽面では、80年代に活躍したザ・スミスの扱いがニヤリとさせます。

さらに、80年代映画の使い方が上手い。特に青春映画の名手ジョン・ヒューズ監督の傑作『ブレックファスト・クラブ』にオマージュを捧げているのが秀逸で、本作が何を指向しているのかがハッキリと浮かび上がります。できれば事前に同作を観ておいたほうが、より楽しめるでしょう。

80年代を経験したことのない渋谷の若者にも、きっと不思議な懐かしさを感じさせるに違いありません。方向性を大きく切り替えた、青春映画としての『トランスフォーマー』シリーズ最新作を是非、ご覧ください。

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▼Information
『バンブルビー』
https://bumblebeemovie.jp/
3月21日(木・祝)、TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「ぷらすと by Paravi」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.48 誰だってヒーローになれる『スパイダーマン:スパイダーバース』
◆vol.47 音声の向こう側へ『THE GUILTY/ギルティ』
◆vol.46 月に挑んだ男の孤独『ファースト・マン』

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