映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.51 壮大な物語のはじまり『キングダム』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。51回目は、2019年4月19日(金)公開の映画『キングダム』です。本作は、TOHOシネマズ渋谷をはじめとした全国東宝系の映画館でご覧いただけます。

中国の戦国時代を生きる奴隷少年の夢

©原泰久/集英社 ©2019映画「キングダム」製作委員会

累計発行部数3,800万部(2019年1月現在)というとんでもない数字を叩き出している漫画があります。「キングダム」というその作品は、紀元前の中国、春秋戦国時代に歴史上初めて中華統一を果たした秦の視点から描かれた時代劇です。

中華統一という壮大なスケールのため、原作は50巻を超えても未だ終わる気配はなく、映像化も不可能だと言われていました。しかし、万難を排して、この壮大な『キングダム』映画化プロジェクトが幕を開けました。

物語は、紀元前245年、中国西部の秦国に住む奴隷の少年である信が、運命的に秦王である嬴政(えいせい)と出会い、共に中華統一を目指すというもの。しかし、前述の通り、とても2時間で描き切れる内容ではないため、本作は、信と嬴政が出会い、嬴政に反旗をひるがえした王弟の成蟜(せいきょう)から王座を奪還するべく王宮に攻め上る、原作の序盤のエピソードを描いています。

この割り切り方は、とても正しい判断です。本作は、ヒットすれば続編を作る可能性があることを前提に作られています。その結果、原作エピソードを無理やり1本の映画に詰め込み、2時間に圧縮することで物語が崩壊するという、かつて映画界で見受けられた惨事を回避することに成功しています。

特に本作が描いている原作序盤パートは物語がシンプルであるため、2時間14分の映画化においても原作のエピソードを無理に省略することなく自然と描くことが可能です。

筆者も原作ファンですが、割愛された物語をすんなりと受け入れることが出来ました。これは大ヒット漫画の映画化において、非常に重要な課題をクリアしたと言えます。

また本作は、派手に描かれがちの漫画のキャラクターを実写に落とし込む際に生まれる違和感も上手くクリアしています。原作は、武将たちのダイナミックなアクションシーンが魅力ですが、超人的な必殺技といった漫画的対処があまりありません。それを踏まえて、映画版では殺陣のケレン味は意識しつつも必要以上に超人的な描写を抑えることで、現実世界と地続きに存在する人間を感じさせます。つまり、意外にもアクションのリアリティという視点で、「キングダム」は映画化に向いていたのです。

しかし本作には、例外的に、超人的な動きを見せるキャラクターがいます。成蟜の部下の武将、左慈(さじ)です。圧倒的な強さで信たちを追い込んでいくのですが、この左慈を演じたのが、坂口拓。彼はインディーズ映画で異様な人気を誇る『VERSUS』などでも知られる俳優で、格闘技の達人。多くのアクション映画で見事な身のこなしを披露しています。

本作は、左慈だけが他とは違う速さと気迫で恐るべき殺陣を繰り広げます。たったひとり、生身でありながら、事実上、超人的な動きを見せる坂口拓演じる左慈に、何度倒されても想いを背負って食らいつく信の姿は、重要なカタルシスを生んでいます。

原作はこの後、数万どころか十万を超える軍勢同士の激突など、非常に壮大な展開が待ち受けています。そこで初めて、本当の意味でこの原作の実写化が実現可能か試されるのだと思います。

個人的には、坂口拓というアクション映画界の猛者を序盤で投入した本作が、ヒットして続編が製作される場合、更なる強者をどう表現するのか注目したいところです。いずれにせよ、この壮大なプロジェクトの1作目として製作された本作は、まず今後に期待を抱かせる一本に仕上がったと言えるでしょう。

▼Information
『キングダム』
https://kingdom-the-movie.jp/
2019年4月19日(金)全国東宝系にてロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」TOKYO FM「LOVE CONNECTION」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

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https://www.tokyu-dept.co.jp/kingdom_mvcp/

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