映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.52 若気の至りのリアル『アメリカン・アニマルズ』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。52回目は、2019年5月17日(金)公開の映画『アメリカン・アニマルズ』です。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

前代未聞の窃盗事件。犯人が劇中に登場

© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

実際に行われた犯罪を映画化した作品を観ると、その多くが現実離れしていて、そもそも映画のために創作されたのではないかと感じることがあります。

先日公開されたクリント・イーストウッド監督作『運び屋』などは、まさにそうでした。80代で花の栽培から麻薬の運び屋に転じた老人の数奇な物語は、実話と言われてもにわかに信じがたいものがあります。事実は小説より奇なりと言いますが、事実は映画より奇なりとも言えます。

今回ご紹介する『アメリカン・アニマルズ』も、こんなバカげた話があったのかと感じる、ある事件の映画化作品です。

© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

本作は2004年に起きたケンタッキー州のトランシルヴァニア大学の図書館に収められた画集の盗難事件を描いています。

その画集は、ジョン・ジェームズ・オーデュボンの著作「アメリカの鳥類」。時価1200万ドルという驚愕の価値がついた重要な画集です。そんな貴重な本を厳重なセキュリティをかいくぐって盗み出そうとするのが、ごく普通の大学生たちだった事実に驚きます。

この普通の大学生たちは、特にお金に困っているわけでも人生に行き詰まっているわけでもありません。平凡な毎日から抜け出すために安易な考えで刺激を求め、大それた行動に出るのです。

© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

この愚かさは、彼らがクエンティン・タランティーノ監督の名作『レザボア・ドッグス』になぞらえて、自分たちの呼び名を決めていく様にも垣間見ることができます。そんな浅はかな行動原理に突き動かされ、貴重な「アメリカの鳥類」を盗もうとする彼らこそ、どうしようもない“アメリカン・アニマルズ”なのです。

本作は構成が魅力です。事件の当事者たちへのインタビューと劇映画パートを織り交ぜています。当時どうしてそんなバカなことをしたのか、その理由と心情を本人たちがインタビューで語りながら、その顛末を劇映画として再現していきます。

© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

若かりし“アニマル”であった当時の彼らと、時を経て多少は大人になったであろう現在の彼らとの対比が、何とも言えないほど虚しく、切なさを感じさせます。これは元々ドキュメンタリーを撮っていた監督ならではの手法です。現在の現実を組み合わせることによって若気の至りと後悔をハッキリと浮かび上がらせているのが巧妙なのです。

大した不満はないけれど何事もなく生きていくことを退屈と捉える若者はたくさんいるでしょう。確かに刺激を求めることも悪くはありませんが、退屈の価値を知ることが、本能に身を任せるだけの動物ではない人間的な知性の獲得とも言えます。本作に映し出された登場人物たちを反面教師として、よりよい人生を歩みたいものです。

© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018

▼Information
『アメリカン・アニマルズ』
http://www.phantom-film.com/americananimals/
5月17日(金)より新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」TOKYO FM「LOVE CONNECTION」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.51 壮大な物語のはじまり『キングダム』
◆vol.50 深い余韻を味わう『希望の灯り』
◆vol.48 誰だってヒーローになれる『スパイダーマン:スパイダーバース』

※記事の内容は公開時点の情報です。価格等の情報については変更している可能性がありますのでご了承ください。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加