映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.55 人生の折り返し、夢の始まり『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。55回目は、7月12日(金)公開の映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』です。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

中年男性たちの哀しく美しい人生

シンクロナイズドスイミング(以降、シンクロ)が題材になった映画といえば、『ウォーターボーイズ』(2001年)が思い出されます。同作は、男子高校生がひょんなことからシンクロに挑むことになる青春映画でした。妻夫木聡さんや玉木宏さんなど、今考えてもそうそうたる面々がまだキャリア的にも浅い頃に本作に出演し、一躍注目を集めました。

あれから18年。シンクロを題材にした映画が帰ってきます。しかしそれは予想もしない形で。

(C) 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』は、フランスを舞台にしたシンクロに関する映画です。もちろん、本作も男性によるシンクロという点が魅力のひとつなのですが、男子高校生が主人公だった『ウォーターボーイズ』と違って、シンクロに挑戦するのは中年男性たち。その物語を、青春映画というフォーマットではなく、人間ドラマとして描きます。

本作は、哀しき中年男性たちの群像劇です。うつ病、事業の失敗、ミュージシャンとしての夢の挫折、家族に捨てられた……など、彼らはそれぞれ人生に問題を抱えています。しかし、そんな中年の危機ともいえる状況に直面した彼らは、シンクロに向き合うことで、人生を前に進めようと試みます。

(C) 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

『ウォーターボーイズ』はコメディをベースにした輝ける青春映画でしたが、本作がそれと少し違うのは、コメディ要素のなかに身につまされる切なさ、つまり悲哀が漂っていることです。中年体型などによる滑稽な見た目もあるのでしょう。人生の折り返しに到達した者たちだからこそ、無限の未来ではなく人生の残り時間を観客に感じさせるのです。

うつ病を抱えて人生に悩んでいる中年男性ベルトランを演じたのは、マチュー・アマルリック。『潜水服は蝶の夢を見る』(2007年)や『007 慰めの報酬』(2008年)などで知られる世界的な名優です。既にスターとして存在し円熟味を増している彼を中心に、フランス国内外で知られている俳優たちが本作に参加しています。

彼らは本作で惜しげもなく……という言葉が適切かどうかはわかりませんが、たるんだ肉体を披露しています。それが本作の笑いと悲哀につながっている点が、何度も言いますが秀逸です。

それを可能にしたのは、本作の監督が、俳優として非常に有名なジル・ルルーシュだったからでしょう。信用度の高い彼の存在でマチュー・アマルリックは出演を決意したそうです。

また、スポーツ映画において『ロッキー』的なトレーニングシーンはお約束ですが、本作ではそうしたシーンのBGMに、オリビア・ニュートン・ジョンの「フィジカル」が使われています。演出したジル・ルルーシュ、そして音楽を担当したジョン・ブライオンのセンスを感じさせます。

“シンク・オア・スイム”という言葉は“イチかバチか”という意味。人生の中盤を過ぎて苦境に立たされた彼らが、まさに“シンク・オア・スイム”でシンクロに挑みますが、本作は、彼らのその後をもぼんやりと想像させてくれます。

若き“ウォーターボーイズ”ではない彼らが、その刹那に輝くからからこそ、その美しさの残光は深い余韻として、観客の心に残り続けるのです。

(C) 2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

▼Information
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』
http://sinkorswim.jp/
7月12日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」「ぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「LOVE CONNECTION」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.55 本物のアクションがここに『ザ・ファブル』
◆vol.54 ダメ人間と自由について『町田くんの世界』
◆vol.53 映画新時代の幕開け『アベンジャーズ/エンドゲーム』

※記事の内容は公開時点の情報です。価格等の情報については変更している可能性がありますのでご了承ください。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加