映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.57 時代に求められる品格『カーライル ニューヨークが恋したホテル』

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本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。57回目は、8月9日(金)公開の映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』です。本作は、Bunkamuraル・シネマでご覧いただけます。

品格とは何か

旅の大きな楽しみといえば、ホテルステイを挙げる人も少なくないでしょう。世界中に素晴らしい一流ホテルはたくさんありますが、文化的にも経済的にも世界最大級の大都市であるニューヨークでその名を轟かせているのが、「ザ・カーライル ア ローズウッド ホテル」(以降、カーライル)。

世界最高レベルの5つ星ホテルであり、あまりにも有名なので泊まったことはなくとも名前を聞いたことがある人は少なくないでしょう。本作『カーライル ニューヨークが恋したホテル』は、この、カーライルの姿となぜこのホテルが偉大なのかを浮かび上がらせるドキュメンタリーです。

(C)2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ニューヨークで富裕層が集まるアッパーイーストサイドに1930年に誕生した超高級ホテル、カーライル。歴代アメリカ大統領や英国王室も贔屓にし、世界中のセレブや大富豪たちに愛されています。

最新鋭のホテルとは言い難いつくりですが、にもかかわらず、一度このホテルを訪れた人はもれなく虜になります。その魅力のひとつは、間違いなくホテル内のベーメルマンス・バーでしょう。

絵本のような独特の雰囲気を持っているこのバー。アメリカの絵本作家、ルドウィッヒ・ベーメルマンスが1年半逗留して壁に絵を描いています。

本作では、カーライルを愛するセレブたちが惜しげもなく登場していますが、中でもこのバーについて語るウェス・アンダーソン監督のある言葉は、映画ファンの心を刺激するのは間違いありません。

さらに、同じくホテル内にあるカフェ・カーライルも映画好きにとって非常に気になる場所として登場します。なぜなら、このカフェでは毎週1回、映画監督のウディ・アレンがクラリネットを演奏しているからです。ウディ・アレンがクラリネット奏者として有名なのは映画ファンの間で知られていますが、今もなおこのカフェ・カーライルで演奏を続けているのです。

ちなみに本作では、ジャズ奏者でありこのカフェで演奏し続けたボビー・ショートのエピソードがたっぷりと語られます。

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このほか、本作ではカーライルに3ヶ月間滞在した俳優のジョージ・クルーニーや、史上最強のテニスプレイヤーでカーライルファンのロジャー・フェデラー、ファミリーでカーライルを愛用している映画監督のソフィア・コッポラなど、セレブのインタビューがふんだんに用いられます。

それらは非常に華やかで、まず観客の目を引きます。しかし本作で一番伝えたいことは、ホテルのスタッフの言葉のなかにあります。

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監督のマシュー・ミーレーが描く本作の主題は、カーライルの存在意義です。長年働いてきたスタッフたちがカーライルの絶品エピソードを語る瞬間に垣間見えるのは、このホテルの家族的なホスピタリティと古き良き品格。それが実に美しいのです。

裏方であるスタッフの存在こそが、カーライルそのものであることが伝わってきます。中でも、2016年までコンシェルジュを務めたドワイトの退職日をカメラが追っていますが、彼がカーライルを辞める理由を語るとき、カーライルの存在が今の時代においてどれほど象徴的に重要度を高めているかを観客は知ることになります。

いかんせん、スイートルームが1泊200万円もする超高級ホテル。一般人にはなかなか泊まることが難しいホテルですが、映画からその魅力の一端を垣間見ることができます。今の時代に必要な品格とは何かを考えさせられる作品です。

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▼Information
『カーライル ニューヨークが恋したホテル』
http://thecarlyle-movie.com/
8月9日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」「ぷらすと」TOKYO FM「LOVE CONNECTION」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。

◆vol.56 両親を訴える少年が伝える現実『存在のない子供たち』
◆vol.55 人生の折り返し、夢の始まり『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』
◆vol.54 ダメ人間と自由について『町田くんの世界』

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