子どものころ、僕らはみんな旅人だった。想像の翼を生やして目をつむれば、パリの路地裏にだってウガンダの湖畔にだって飛んで行けたのだ。今は旅に行きにくい? いやいや、仕事の合間のたった60分でいい。想像力と好奇心を携えて仕事場を飛び出せば、見慣れた街が旅先になる。さぁ、60分の旅に出かけよう! 今回の旅先は幡ヶ谷エリアだ。
白状しよう。僕は幡ヶ谷に二日連続で来ている。新宿や渋谷の盛り場からはすこし離れた場所にある幡ヶ谷駅には、あえて足を運ぼうと思わなければ、なかなか降り立つことはないはず。でも、“あえて”旅をしにくるだけの魅力が、この街にはあるのだ。
甲州街道の北側のエリアも楽しいけれど、60分しかない今日の旅でチョイスしたのは南側。ここの魅力は「日常と非日常の交じりあい」だ。
幡ヶ谷駅南口をでて、代々木上原方面に少し歩いたところにあるのが「旧玉川上水跡遊歩道」。木々の緑と木漏れ日が、都会の喧騒に疲れた心を癒してくれる。江戸時代には市中に水を供給する上水がここを流れていた。「二字橋跡」にちょっと立ち止まって、江戸の街並みに想いを馳せてみるのも一興だ。
さらに進むと見えてくるのが「西原商店街」。海外を旅していても、観光地化されたストリートより、そこに住む人々の息づかいが聞こえるようなストリートに惹かれる。この商店街がどこか落ち着くのは、クリーニング店や銭湯や八百屋やお花屋がある風景に、そこに住む人々の日常を感じるからかも。
さりとて「日常」があるだけじゃないのが、「西原商店街」にハマってしまうポイントだ。ためしに、ZINEなどのアートブックに特化したギャラリー・セレクトショップ「gallery commune」をのぞいてみよう。そこでは見たことのない国内外のアーティストの作品と出会うことができる。ここは、日常のなかの小さな非日常だ。
この街の日常の風景になっているカフェ「PADDLERS COFFEE」でも、感性を刺激するようなポップアップストアに出会える。
この日開かれていたのは「SPONGE BOOK STORE」。縫製業、鞄作家、イラストレーター、漫画家、ストリート読書集団が集い、オリジナル商品や選書した本を販売する、神出鬼没の書店らしい。どこかで見たことあるようないでたちのキャラ「スポくん」もかわいらしくて、ついついグッズを買ってしまった。
「西原商店街」って、年季の入った建物も多いなぁ、なんて思いながら歩いていると、ひときわお洒落な一軒を発見。刺繍家・小林モー子氏がプロデュースする、「こんにゃく寿司とかき氷 KON」という店らしい。こんにゃく寿司って?! 外からちらりと見えた内装の色気も気になり、吸い込まれるように入ってみる。
頼んだのは、こんにゃく寿司と南関いなり寿司がどちらも楽しめる「組み合わせ一人前 万の日本茶付き」(1,760円・税別)。
熊本県小国町の郷土料理であるこんにゃく寿司は、熊本産醤油やきび砂糖で炊いたこんにゃくでごはんを包んだ一品。ぷるんとした歯ざわりと、じんわりとした甘みのあるこんにゃくがくせになりそう。日本茶との相性が、これまたよろしい。ホッとひと息つきながら、遠く阿蘇の地へ想いを馳せる。
やばいやばい、築60年の古民家を改装したというあたたかみのある空間に包まれて、ついつい長居してしまった。まだまだ気になるスポットがたくさんある幡ヶ谷エリア。だけど悲しいかな、次の打ち合わせの時間が迫ってきているのだ。「仙石湯」でひとっ風呂浴びたい気持ちを抑えて、駅へ戻ることにする。
またくるぞ幡ヶ谷。たぶん、来週くらいに。
本日の60分の旅、これにて終了!
A:幡ヶ谷駅
B:二字橋跡
C:gallery commune – commune Press
D:PADDLERS COFFEE(この日は「SPONGE BOOK STORE」開催)
E:こんにゃく寿司とかき氷 KON