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【連載 短編小説】シブヤ関係 第14回 「モーニング・レイン・フレーバー」

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2017/3/29更新

さまざまな人が交差する渋谷では、今日も、人の数だけ興味深いドラマが繰り広げられている。出会い、別れ、喜び、不安に満ちた街にも関わらず、つい足が向かってしまうのはなぜなのだろう? 人と会いたくなる街「渋谷」で繰り広げられる様々な人間関係を、読み切り連載でライター 前田紀至子がお届けいたします。

渋谷 カフェ 朝

雨の日が憂鬱だとは限らない。寒くて暗い雨の朝だからこそのお楽しみを見つけたなら雨の日が待ち遠しくなったりもする。例えば普段ならば朝食を食べに行こうとしても行列で断念せざるを得ない宇田川町のブラッスリー。天気が冴えない日や寒い日は案外スムーズに入れるからこそ、雨音で目覚めるやいなやベッドからiPhoneに手を伸ばし、即アポイントメントを入れることも少なくない。「ねぇ、朝ごはん食べに行かない?」と。

今朝も少しの雨ととびきりの寒さのお陰で待ち時間無くお店に入ることができた。モーニングセットを頼んだそばから他所のテーブルでおままごとの様に並べられているジャムや蜂蜜の瓶を羨ましく見つめてしまう。じきに私たちのテーブルにも運ばれてくるというのに。

渋谷 カフェ 朝

「どうして、あなたは私のものになってくれないの?」

不意に耳に入ってきた言葉に耳がダンボになる。どうやら声の主はパン・オ・ショコラとバケットを手にしている隣のテーブルの男女だ。

「どうして、って…そりゃあキミには彼氏がいるし」

「…あなたにも大切な人がいるし?」

場所柄、訳ありな男女が朝食をとっている光景をしばしば見かけるけれど、今日もまたそういう場に出くわしたらしい。

「ならどうして私に会いたがるの?どうして一緒に過ごしたがるの?」

「意外だね、キミがそういうこと言うなんて。やっぱり女の子なんだ」

男は女性に対して一瞥もくれずにママレードジャムをバケットに塗りながらそう言い放った。6種類のジャムや蜂蜜、そしてチョコレートクリームたちは彼の本音をごまかすのにもってこいと言ったところだろうか。

私は僅かに苦笑いを浮かべながらテーブルを共にしている相手にそっと耳打ちする。

渋谷 カフェ 朝

「ねぇ、やっぱり男の人って最低ね」

すると彼は笑みを浮かべ、少しばかり悪戯な瞳で耳打ちをしかえしてきた。

「そうかもしれないけれど、キミもやっぱり女の子だね。ほら、キミの大好きなパン・オ・ショコラとアップルパイが運ばれてきたよ。ゆっくりお食べ」

何だかうまくやり込められた気がしたものの、私は大人しく焼きたてのパンに手を伸ばした。パン・オ・ショコラは雨の朝の味がする。



渋谷 カフェ 朝

ライター:前田紀至子(まえだ・きしこ)
フェリス女学院大学文学部卒。
新潮社nicola専属モデルや光文社JJのライターを務めた後、フリーに。
現在は雑誌やウェブでの記事執筆の傍ら、自身も雑誌やテレビなどに出演も。




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