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映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.7 あの日から続く物語『彼女の人生は間違いじゃない』

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2017/7/3更新

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。7回目は、2017年7月15日(土)公開の映画『彼女の人生は間違いじゃない』。渋谷の街も舞台になっている作品です。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

彼女の人生は間違いじゃない (C)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

廣木隆一という映画監督をご存知でしょうか。現代を代表するヒットメーカーの一人で、近年では『PとJK』『ストロボ・エッジ』のような若者向けの青春ラブストーリーが人気です。

しかし、ぼくが考える彼の表現者としての持ち味は、そうした青春ラブストーリーではなくて(その撮り方も上手いのですが)、情愛を交えながら居場所を探す人々の姿を描く、『ヴァイブレータ』や『さよなら歌舞伎町』などの「欠落」を含んだ作品にあると感じています。

本作はそんな廣木監督が、自ら初めて小説を書き起こし、映画にしたものです。

心の復興は、まだ遠い

彼女の人生は間違いじゃない (C)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

舞台は東日本大震災の復興途中にある被災地、福島。主人公のみゆきは、父親と仮設住宅で暮らしています。母親は津波で行方不明になりました。父親は補償金をもらっていますが、家業の農業ができなくなったことから気力を失い、パチンコばかりしています。

みゆきは普段、市役所で働いています。しかし、週末になると彼女は東京へ出ていき、心の隙間を埋めるようにして、デリヘルの仕事をしているのです。本作は、みゆきの心の動きを中心に、いまだ終わらない震災の傷と希望のかけらを描きます。

苦しみが「見えない顔」をして漂う

まず、本作で印象的だったのは、寄り添うようなカメラワークです。たとえば、冒頭の移動シーン。福島に住むみゆきが長距離バスで東京に向かうのですが、その様子が実に十分な時間をかけて描かれるのです。

それは、福島から東京に移り変わる景色を捉えることで、カメラの前にいる人間の心情の連続性を映し出し、「物理的に変わるもの」と「停滞するもの」の対比を明確に感じさせようとするものです。

人物に寄り添った描写は、どこか崩壊しそうな危うさを抱えたみゆきを中心に、細やかな心の揺らぎも表現します。被災者が普段は顔に出さずとも心の奥底には悲しみを抱えているという現実。本作ではそれを、巧みなカメラワークで浮かび上がらせるのです。

彼女の人生は間違いじゃない (C)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

多くの映画は、事件の始まりと終わりを劇中で描きます。しかし、本作では事件はもう既に起こっています。起きてしまったことによる癒えない苦しみは、見えない顔をして、無音のままカメラ付近に漂い、何気ない瞬間に姿を現すのです。

忘れてはいけないものを「映像」で残す

本作が大きな意味を持つのは、記録の側面もあります。

廣木監督は、以前に『さよなら歌舞伎町』を新宿歌舞伎町で撮影しています。この当時、新宿は大規模な開発が行われつつある状況でした。同作は男女のドラマですが、それと同時に変わる前の新宿の風景を残した記録映画でもあったのです。

本作でも、当時の、そして今の福島を映像で残しておきたいという監督の意思を感じます。たとえフィクションであっても、そこに生きる人々のまだ癒えぬ心情を写し取り、それを映像で残しておきたいと考えているのです。

映画という記録性の強い媒体で、忘れてはいけないものを残すことに、大きな意味を感じます。福島の人々をモチーフにしながら、「あの日」を忘れかけているともいえそうな渋谷の街も舞台としている本作を、ぜひみなさんに知ってもらいたいと思います。先行きのわからない不安の中を彷徨いながらも、何かを掴もうとする人間の小さな輝きをその目に焼き付けて欲しいのです。

▼Information
『彼女の人生は間違いじゃない』
http://gaga.ne.jp/kanojo/
7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるPJ「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。




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