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【アート初心者向けレッスンNo.2】ベルギー発奇想天外な作品を、ホラー映画から読み解く!

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2017/8/22更新

「本格的なアートって、ちょっと興味があるけれど難しそう」
「美術館ってマナーや堅苦しいイメージがあって入りにくい」
そんな思いこみもあり、美術館へ行く機会は、なかなかないものです。でも、「アートを楽しむ」って本当は誰でも気軽にできること。

本連載では、「アートを楽しむ」ちょっとしたコツと役立つ知識をご紹介していきます。

渋谷にあるBunkamura、ザ・ミュージアムで開催されている展覧会「ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」では多くの「奇想」的な作品が展示されています。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

作品によって姿かたちを変える「奇想」に、鑑賞者は戸惑うかもしれません。「奇想」とはなにか、またどのように読み解けばいいのか。作品を読み解くヒントは実は、私たちがよく知る「ホラー映画」にあるようです。

今回は作品を紹介しながら、「奇想」的な展覧会の楽しみ方をお伝えしていきたいと思います。

■人々の不安をモンスターに変身させた、初期の「奇想」

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

ゾンビや切り裂きジャックなど、ホラー映画を盛り上げる怪物。次々と人間を襲う彼らに幼い頃、震え上がった記憶はありませんか。
展覧会の最初のブース「15-17世紀のフランドル美術」では、日本の妖怪でおなじみの猫又や河童のように、身近な動物や昆虫、そして人間をミックスしたような生き物が登場します。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版] 《大食》1558年、エングレーヴィング・紙 神奈川県立近代美術館

この作品の中の珍妙な彼らは悪魔で、人々に暴飲暴食を強いています。
教育機関がなかった中世。教会が識字能力のない人々に「悪魔にそそのかされず、清く正しく生きる」ことを説くために、絵画を利用しました。悪魔の誘いにのって自滅する人間の姿を目に焼き付けることで、鑑賞者は自戒したのです。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

現在でいうベルギーとその周辺地域では、中世末期から目に見えた姿をありのまま描く写実主義を絵画の伝統としていたため、悪魔は空想の産物とはいえ、なんだかリアル。

13日の金曜日に出没するジェイソンも妖怪たちも、人間の不安や恐怖から生まれた存在。「本当にいるかもしれない!」と想像させるほど生き生きと描くことで、鑑賞者の恐怖を膨らませているのです。

映画と絵画で表現の方法は異なりますが、刺激される人の感情は同じです。画面に集中していると、もしかしたらふと隣に悪魔の気配を感じるかもしれませんよ。

■次の瞬間なにが起こるのだろう?気配を感じて怯える近代の「奇想」

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

16世紀大航海時代に人々は世界を知り、18世紀啓蒙主義時代に「教育」の概念が生まれ、訪れた19世紀は「科学の世紀」。工業化、都市化が進み、身の回りのものが次々と解明されていく中、現実に背を向けて想像と夢の世界に逃げ込む芸術家たちが現れます。

第二章「19世紀末から20世紀初頭のベルギー象徴派・表現主義」では、目に見えないものを追及する絵画が展示されています。
当時多くの作家が魅せられたのは、「死」。現実を地獄のように感じる彼らにとって、そこからの抜け出すことができる「死」は、魂の開放を意味しました。

しかし見えないものをどのように描くのでしょうか。
この時代、モチーフにドクロなど死の「象徴」が多用されています。しかしドクロも多種多様。メキシコのお盆のようなカラフルに彩られるものから、影を落として陰鬱に「表現」されるものまであります。その「象徴」や「表現」を駆使して、画家は空想をキャンバスに落とし込んだのです。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで 右側)ヴァレリウス・ド・サードレール《フランドルの雪》 油彩・キャンバス アントワープ王立美術館

この作品に対峙したとき、実際には雪景色が描かれているにも関わらず「なにも描かれてないじゃないか」と文句を言う人がいるかもしれません。その感想は、言い得て妙。

鑑賞者は絵画が醸し出す雰囲気に、正体が見えない「なにか」の存在を感じ取っているのです。これは映画「ジョーズ」で、お決まりの効果音に刺激されて、いつ襲ってくるかもしれない存在に、見る人が肝を冷やす仕掛けと同じ。

見えないけれども存在感のある空気は、クノップフの作品からも伝わってきます。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで 左)フェルナン・クノップフ《内気》 1893年 彩色写真(撮影:アレクサンドル) ベルギー王立図書館、ブリュッセル 右)フェルナン・クノップフ《捧げもの》 1891年 チョーク・紙 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー

暗喩を込めた微妙な表情から、感情を読み取ろうとしてもできず、不安をぬぐえません。もし本のように作品に次のページがあるとしたら、早くめくりたくなるような衝動を、一枚の絵の前で悶々と抱いてしまうのです。

■鑑賞者の頭の中に仕掛けられたギミック。逆転発想を狙った現代の「奇想」

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

19世紀に革新的に発達した科学は、21世紀にはミクロサイズの発見までに至りましたが、人間の思考や社会システムについては未だ議論中です。

芸術家の興味も同じく、人間全体、もしくは社会との関係性に想像を広げることとなります。最後のブース「第三章 20世紀のシュルレアリスムから現代まで」では映画「シックスセンス」のような結末でどんでん返しをされる映画を思い出しながら、作品を鑑賞してみてください。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで トマス・ルルイ《生き残るには脳が足らない》 2009年 ブロンズ ロドルフ・ヤンセン画廊 © Studio Thomas Lerooy, Brussels, courtesy rodolphe janssen, Brussels /Photo: Philippe D. Hoeilaart

人の身体をかたどった像は、ミケランジェロの像など身体美を表現するものが一般的です。しかし、この像の頭は肥大化して、重さに耐えきれずに地面に落ちています。筋肉質で美しいはずの身体もぐにゃりと力が抜けてだらしない。

なぜこのように頭が巨大化したのでしょうか。
この像は、スマホやインターネットに依存して情報を取り入れ続けても、その知識欲の渇きを潤すことができない現代人の姿を示唆しています。

目の前の情報を追いかけていると、自分自身も知識を得て賢くなったように錯覚しますが、果たして手に入れた情報は、本当に私たちの血肉になっているのでしょうか。もしかしたら情報のカロリーを摂取するだけで、脳がメタボリックになっているだけなのかもしれません。

「当然」と受け流し、見過ごしていたものが、視点を変えることで違う姿に映し出されるような。まるで映画の最後にどんでん返しされるような皮肉に、「してやられた」と感じるでしょう。

Bunkamura ザ・ミュージアム ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで

表現者たちが切り取った各時代の「奇想」。
描かれたそれは、人々が心に溜めていた不安や鬱憤を作家が代弁したものでした。ホラー映画は、現実で起こりえないことを疑似体験してスリルを味わうエンターテインメントですが、それに近いものが今回紹介した作品にあるようです。

キリスト教の権力がはびこる禁欲の中世、便利になる一方で貧富の格差が広がった科学の近代、そして多様性が求められて固有の価値観が揺らぐ現代。それぞれの時代に、人々が心の奥底に押し込んだものを、思いがけない姿で取り出したのです。

もちろん、今回ご紹介した展覧会は「ホラー」ではなく「奇想」的作品が並んでいます。描かれた悪魔も生き生きとしていて、人間に悪さをしている様子がなんとも楽しげです。作家たちと同じように、空想に身をゆだねながら展覧会を堪能してくださいね。

【展覧会概要】
展覧会名:ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで
開催期間:2017/7/15(土)-9/24(日) (*7/18(火)、8/22(火)のみ休館)
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
入館料:一般 1,500円 大学・高校生 1,000円 中学・小学生 700円(すべて税込)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)
展覧会URL:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_belgium/
施設URL:http://www.bunkamura.co.jp/




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