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「この駅は生き物かもしれない」一日280万人をさばく“モンスター〝渋谷駅゛の正体

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2017/10/24更新

渋谷駅                               

それは一日280万人の乗降客をさばき、地上4階の銀座線から、地下5階の東横線まで、9層のなかに9路線が入り組むモンスター級のターミナル駅。

渋谷 田村圭介

まるで迷宮のような構造。そして、日々更新されるそのスピード感。人をさばくために利便性を追求し、変化し続けるその姿に、いち利用者として脅威を感じることも少なくありません。

ではなぜ、渋谷駅は圧倒的に複雑な構造をしていて、めまぐるしく変化を止めないのでしょうか。実はその理由が、この本を読むとわかってくるのです。

渋谷 田村圭介

『迷い迷って渋谷駅 日本一の「迷宮ターミナル」の謎を解く』(田村圭介著/光文社)

何げなく利用すれば、それは単に複雑な構造をした駅でしかありません。でも、その理由を自分なりに捉えることができれば、「いつもの渋谷駅」が、もっと興味深い「何か」に思えてくるかもしれない−−。

ライターは、渋谷駅の人混みがちょっと苦手だなあと考えていたこともあった私、根岸達朗。前述の本の著者である田村圭介さんに“モンスター”「渋谷駅の正体」について、話を聞いてきました。

渋谷 田村圭介

話を聞いた人:田村圭介(たむら・けいすけ)
一級建築士。昭和女子大学生活科学部環境デザイン学科教授。1970年東京生まれ。2002年、FOAジャパン勤務時代に横浜港大さん橋国際客船ターミナルの設計監理を担当。97年より渋谷駅の研究を始め、2010年に渋谷駅のコンコースを展示会場とするアーバンエキスポ「shibuya1000_02」で、渋谷駅の変遷を模型で発表。渋谷駅に関する模型やドローイング、映像、テキストを多数発表している。著書→

渋谷駅が「知性」を刺激する

渋谷 田村圭介

「田村さんの本、読ませていただきました。渋谷駅って、実はとてもおもしろい駅なんですね」

「そうなんですよ。でも、多くの人はそれに気づいてないし、普通は考えようとしないのかもしれませんね。渋谷駅はただの都市のインフラであり、無意識に通り抜けるものというような感じで」

「まさにそうですね。息止めてさっさと通り抜けちゃえみたいな、そんな感覚が僕にもありました」

「でも、その無意識を意識化すると実はすごい楽しめるんです。僕は大学で建築を教えているけれど、学生たちもいつも無意識に通り抜けていた渋谷駅に仕組みがあるということがわかって、はじめておもしろいと思うらしいんです。それまではめんどくさいし、よくわからないから考えなかったけど、構造がわかったらおもしろいなと」

「渋谷駅が知性を刺激するんですね」

渋谷 田村圭介 田村さんが制作した渋谷駅の模型。プラットフォームや階段が複雑に入り組んでいるのがわかる。
渋谷 田村圭介

「構造を知るのはとてもおもしろいことです。それがわかるようになれば、都市のなかに今まで参加していなかった自分が参加できるようにもなっていきます

「参加していなかった自分、ですか」

「そう。構造を知れば、そんな自分はどこにいて、どういう風に移動して、どこにいくのか、頭のなかで空間が作れるようになっていくでしょう。こういう思考の組み立て方は、実生活にも役立つと思います」

「なるほど。しかもその構造を知ることは、その建築物そのものだけではなくて、それが建っている土地の歴史を知ることにもつながっていきますね」

「はい、渋谷駅というのはまさに、その土地の歴史も含めた全体で成り立っています。渋谷駅はいきなり一日280万人をさばく駅になったのではありません。最初の利用者はほとんどゼロでした。そこから利用者が100人くらいになって、駅を拡張し、先を見込んで500人対応の駅を建設。それが1000人となったら5000人対応の駅を建ててという具合に、いたちごっこのように増改築を繰り返して現在に至っているんです」

渋谷 田村圭介 現在の渋谷駅の模型。谷状の地形の上にいくつもの建物が建っている。

「そもそも渋谷は建築物を建てるには困難な地形でもあるんですよね」

「そうですね。渋谷駅は谷底にあって、そこにはもともと渋谷川が流れていましたから。その上に建物を建ててきた歴史がある。だから水に弱いのは当たり前で、その証拠に今でも時々大雨が降れば水浸しになっています」

「にもかかわらず、そこを力技で開発していったのはすごいですよね」

渋谷 田村圭介

「その結果、どこからどこまでが駅なのかわからない複雑な構造をした今の渋谷駅ができました。たとえば、突然、エレベーターが口を開けていて、いったいどこにつながってるのだろうと迷いながら進むと、そこは百貨店のなかとかね。変なところがいっぱいあります」

「あるあるですね」

「でも、渋谷駅はそういうところがおもしろい。時代の風を受けて、それに対応し、イノベーションとリノベーション、つまり刷新と改新を繰り返しながら、さまざまな施設が駅施設に溶け合うように、ひたすら変化し続けてきたのです。これは建築的に非常に有機的だと思います

「生物」としての渋谷駅

渋谷 田村圭介

「有機的な建築。キーワードですね」

「はい。それでいうと、建築には、ギリシャのパルテノン神殿の建設から2000年近くずっと続いている『完成の美学』があります。それは一度建ったらそれが永遠に続くことを良しとするような考え方です。20世紀の資本主義的価値観で建てられた建築物は、ほとんどその考え方に基づいて建てられているといってもいいでしょう」

「ふむふむ」

「それに対して『成長して変化していく建築』のイメージを提示したものに、1960年代から70年代に生まれた『メタボリズム』という考え方があります。メタボリズムというのは肥満という意味ではありません。『新陳代謝』を建築に取り入れ、古くなったものを新しくしながら時代の状況に対して建物を適応させていくというものです」

渋谷 田村圭介

「実際にそれで建てられた当時の建物の多くは、社会のスピード感に適応できなかったんですが、そのコンセプト自体には意味があったと僕は考えていて、実はそれが、渋谷駅にもつながっているんですよね」

「渋谷駅がメタボリズム的であると?」

「そう。さきほど渋谷駅は有機的であるといったけれど、生物と建築の考え方の違いは、成長というミッションがインプットされているかどうかなんです。渋谷駅は成長のミッションを持った生物ではありません。でも、人の流れによって成り立っている超動線体としての渋谷駅は、その環境に適応しようとまるで生物のようにふるまってきた歴史があるのです」

渋谷駅は「人間」に近い何か

渋谷 田村圭介

「興味深いです。そもそも田村さんがそうした渋谷駅に関心を持つようになったのはいつ頃なんですか?」

「ちょうど27歳くらいのときです。建築を勉強していて、ふと子どものときに使っていた渋谷駅のことを考えました。当時から『変化していく建築』に非常に興味があったんですが、よく考えてみたら、渋谷駅がそうかもしれないと思ったわけです。どこからどこまでが駅なのかわからないし、どんどん変化していくし。これって建築的に見て、ものすごくおもしろいんじゃないかと」

「灯台下暗し的な気付きがあったわけですね」

「そう。で、いろいろ調べてみたら、渋谷駅に特化して研究しているようなものもない。じゃあ、自分がやろうと。そこからひたすら渋谷駅の変化を追い続けて今に至ります。かれこれ20年ですね」

「変化という点でいうと、たとえば人間も常に変化していきます。さきほどの女子大生の話にもつながりますが、渋谷駅の構造がわかって、知性が目覚めるというように、そこから新たな自分が生まれていく。そう考えると、常に変化する渋谷駅って実は、人間っぽいですね」

渋谷 田村圭介

「それはあると思います。渋谷駅っていうのは、人間の動きをトレースした容器のようなものですからね。ひとつたとえ話をすると、アリ塚ってあるでしょう?」

「いろんな役割を持ったアリが生活している巣ですよね。女王アリがいて、働きアリがいてというような」

「そう。そこには兵隊アリもいるし、子育てアリもいて、みんないろんな役割を担っている。で、そのアリ塚にはそれぞれのアリのためのスペースがある。内部空間は精巧にできていて、換気を考えての通気ルートがあったり、そのなかはまるでひとつの都市のようです

渋谷 田村圭介 アリ塚のイメージ

「そこに数百万のアリが住んで、秩序だってそこで動き続けているんですよね」

「はい。その動きを『機能』と呼びましょう。機能はアリ塚のなかの各スペースの関係が、アリが動き続けることで維持されている。その流れがなくなれば、アリ塚そのものも破綻する。これは人間の体内と同じです。心臓や胃などの各内臓はそこに血液の流れが生じているから、その機能が作用しているわけで、どこかの流れが止まれば全体に影響が及びます」

渋谷 田村圭介

実は、渋谷駅のかたちのでき方というのは、これに近いと思うのです。アリ塚という外形は、内部の機能の結果によってできていて、先に外的秩序があるわけではない。外形が先にあるように見えて、実は内的機能が、外形をつくっているんです。それは人間も同じではないでしょうか」

「渋谷駅=人間説。おもしろいですね」

「もし内的機能の総体が渋谷駅だとしたら、外形についてはコントロール不可能だったはずで、現在の渋谷駅がハチャメチャな構造をしているのも、それはそうだろうという気がしてきます。渋谷駅のかたちが変わるということは、その内的な機能に何らかの変化が起きているときだと思うのです」

どうなる渋谷の未来

「それでいうと、今まさに再開発で超高層ビルを建築中の渋谷駅がこれからどうなるのかというのは非常に興味深いですね」

渋谷 田村圭介

「ええ。超高層ビルはこれまでにもあったけれど、それが駅の上にドンとできるというのは、これまでにない動きなので注目しています。ただ僕はどんな超高層ビルが建つのかということよりも、それができることによって渋谷駅という総体がどうなるかということに興味があります」

「これから社会がどう変化していくかということにも関係がありそうです」

「そうですね。この再開発は2027年までにすべてが完了するということになっていますが、そのときの渋谷駅というのはこれまでの歴史において、物理的にマキシマムのサイズになるでしょう。これから本格的な人口減少社会を迎えるなかで、それがはたしてどのように機能し、変化していくのかということについては、注意深く見ていきたいと考えています」

「生き物の生態観察みたいな感じですね。実は僕、渋谷駅のカオスな感じがちょっと苦手だったりもしたんですけど、今回、田村さんの本を読んで、それこそがおもしろいところであるという新しい視点をもらえたような気がしました」

「それはよかったです。僕も実は昔、渋谷駅が気持ち悪くなっていたこともあったんです。でもこういう風に渋谷駅を見たら、考え方が変わってどんどんおもしろくなってきた。ものごとをどう見れば、ポジティブに生きられるのか。この本はそのひとつの提案でもあるんです」

まとめ

渋谷 田村圭介

渋谷駅は人間のような「生き物」であり、アリ塚のような「自然の造形物」でもあるという田村さんの視点。私たちが「自然」を求めて、海や山に遊びにいくのと同じような感覚で、いつもの渋谷駅を利用することができたとしたら、この街の日常はこれまで以上に知的好奇心をくすぐるものになっていくに違いありません。

再開発が本格化する渋谷駅。その謎に迫り、そこに隠された秘密を豊富なデータをもとに歴史的、構造的に解き明かした田村さんの本は、変化のただ中にある渋谷で“今”を生きるみなさんに、きっと新たな気付きを与えてくれることでしょう。


▼『迷い迷って渋谷駅 日本一の「迷宮ターミナル」の謎を解く』
http://amzn.asia/coKTnRF


それではまた!


【書いた人】

根岸 達朗

根岸 達朗(ねぎし・たつろう)
書く人。発酵おじさん。縄文好き。合気道白帯。ニュータウンで子育てしながら毎日ぬか床ひっくり返してます。

Twitter:onceagain74(https://twitter.com/onceagain74
Facebook:https://www.facebook.com/tatsuro.negishi




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