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映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.15 恐怖のピエロが帰ってきた『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

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2017/11/01更新

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。15回目は、2017年11月3日(金・祝)公開の映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』です。恐ろしい海外ドラマとして知られた作品が、映画になって帰ってきました。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

トラウマ級の恐怖が再び・・・

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

「IT」という作品をご存知でしょうか。かのスティーブン・キングが1986年に発表したホラー小説で、1990年にはアメリカのABCでドラマ化され、全米を恐怖のどん底に叩き込みました。

その特長は、悪霊ピエロが子供たちを襲うというもので、ちょっとしたトラウマになるほど恐ろしいものでした。原作が発表されてから約30年の月日が流れ、満を持して映画化されたのが、今回ご紹介する『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』です。

近年、アメリカを中心にホラー映画ブームが起こっています。たとえば『アナベル』シリーズなどのホラー映画を起点として、映画の才能が世に送り出されています。かねてよりホラー映画は、新しい才能を輩出する装置であり、予算の割に興行成績を稼ぎやすいジャンルでもありました。映画史にその名を刻んだホラー作品である『エクソシスト』を超えて、本作がホラー映画史上最大の記録的ヒットになったのは、この映画に備わったある魅力が大きいでしょう。

スクールカースト下層の少年少女たち

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1980年代のメイン州デリー。小さな田舎町に住む少年少女たちが次々と行方不明になる事件が起きます。ビリー少年の弟ジョージもまた、ある雨の日、兄と作った紙の船を持って出かけたきり、行方がわからなくなります。

突然いなくなった弟という心の傷を抱えたビリーは、家族とも折り合いが上手くいかないまま、スクールカースト下層に位置する学校の友人たちと共に、すっきりしない毎日を過ごしていくことになります。そんな少年少女たちの前に、不気味なピエロが姿を現すことで、彼らの物語が大きく動いていきます。

この映画がホラー映画としてユニークなのは、このスクールカースト下層の仲間たちそれぞれの事情に焦点をあてていることでしょう。主人公的なキャラクターはもちろんいるものの、この少年少女たちの誰もが、本作の中心人物なのです。

彼らはそれぞれ、弟が行方不明になったり、親から性的虐待や抑圧を受けたり、転校生でいじめられたり、人種が違うことで差別されるなど、問題を抱えています。この問題に宙ぶらりんになりながら、どうにかやり過ごして生きている彼らの前に、新たに立ちふさがる恐ろしい壁が、このピエロなのです。

仲間と一緒に「恐怖」と戦う

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

不気味な悪霊ピエロ、ペニーワイズは、少年少女の前に様々な姿で現れます。彼らが最も恐れるものを表現することで恐怖心を煽り、その恐怖が最大化したところで捕食しようとしているのです。

個々では追い詰められていく彼らがとる選択は、協力して対抗することなのです。本作の魅力は、ここにあります。太刀打ちできないと逃げ回る心を奮い立たせて、信じられる仲間たちと力を合わせて立ち向かうことを本作は描いています。

ペニーワイズという絶対に対抗できなそうな強力な相手に対して、少年少女たちは責任感と勇気を振り絞って向き合っていくのですが、その過程で彼らはそれぞれが抱える問題とも向き合っていくことになります。

ホラー版『スタンド・バイ・ミー』

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

また、この映画に更に大きな価値を与えているのは、少年少女たちの青春映画である点でしょう。ペニーワイズが子供たちを襲う中でも、彼らには日常があり、ごく普通に恋もするのです。

抱えた問題と迫り来るペニーワイズに追い詰められた少年少女たちの中に、それでも芽生える淡い恋心と友情を大切に描いていることで、本作は単なるホラー映画から一段階上のレイヤーへと作品を高めることに成功しています。

本作は、序盤のカメラワークで作品のメッセージを象徴的に表現しています。浮遊したカメラは暗く湿った不気味な用水路の中を通って、水が流れ日が差し込む川原へと抜けていきます。

それはあたかも、この恐怖体験と冒険の物語を経て、行き詰った彼らの毎日が変化することを象徴するかのように。このホラー版『スタンド・バイ・ミー』とも言うべき本作は、ホラーの皮をかぶった、少年少女たちの成長物語なのです。

渋谷を行き交う方々にも、ホラー映画だからと敬遠することなく、この瑞々しい青春を体験していただきたいです。

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。 (C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


▼Information
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
http://wwws.warnerbros.co.jp/itthemovie/
11月3日(金・祝)ヒューマントラストシネマ渋谷、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他全国公開

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。




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