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ヨーロッパを制し、時代を集めた【スーパーオタクな皇帝コレクション】

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2018/1/29更新

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアムでは、「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」が1月6日より3月11日まで開催されています。

さてここで、中高生のときに学習した世界史の記憶を掘り起こさなければいけません。
神聖ローマ帝国って?ルドルフ2世って?

ざっくり言うと、今回の展示は、18世紀まで900年ほどヨーロッパを広範囲に渡って統治した国の王様のプライベートミュージムに想いをはせるもの!

名声と財をもつ皇帝の贅をつくしたラインナップには間違いないのですが、ザ・ミュージアムのWEBサイトいわく「スーパーオタク」のコレクションとのこと。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

「現代のオタクとどう違うの?」
「皇帝がそんなことやっていて大丈夫なのか」
「なにが面白いんだろう?」

様々な疑問が聞こえてきそうですが、実はゴロゴロと面白い要素がつまった博物館的展覧会なのです。今回はこの「驚異の世界」のこんなところが面白い!ポイントをご紹介したいと思います。

■実はミュージアムの第一形態!「驚異の部屋」の正体とは

展示されている作品の背景を読み解くには、世界史の知識が必要になります。会場でも説明されていますが、記事では筆者なりの大雑把な説明で、読者のみなさんに眠る世界史の記憶を掘り起こしたいと思います。

舞台は16世紀のヨーロッパ。その少し前、15世紀は大航海時代で、人々は商業目的で世界各地へと飛び出し、様々な文化に触れました。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

乱暴な言い方をすれば、これまでパン、ワイン、洋装で生活していた人々が、自文化にない麺や米、日本酒、着物を知り「エキゾチックジャパン!!」と珍しがり、持ち帰っていったのです。(わかりやすく日本を例に挙げましたが、もちろん日本が開国したのは1854年。実際に当時の人々が触れたのは他地域のものです)

貴重な品々は一般人に広がった……というよりは王侯貴族を中心に収集されました。もちろん彼らは自慢の品々をただ囲うだけでは満足しません。それらを自身の財力や権威の象徴として、他貴族、ときには一般人にも惜しげなく公開したのです。

品々を収集し、保管し、公開する部屋「驚異の部屋(ヴンダーカンマー)」。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

当時こぞって生まれた「驚異の部屋」は、ヨーロッパの美術館ないし博物館(ミュージアム)の原型になったといわれています。かのルーブル美術館も元々はフランス王室のコレクションの保管庫だったのです。

収集された品々は、会社の経理が月末に棚卸をするように、管理者に「貴金属系」「民俗系」「植物系」「動物系」など分類ごとに整理されます。しかし中には、なにがなんだか分からないものもあったため、王侯貴族は知識人を雇って研究・分析に力を注ぐようになりました。

つまり「驚異の部屋」はミュージアムだけでなく、研究の過程で「自然科学」「天文学」などの学問へと体系化していったのです。いつも何気なく訪れているミュージアムの原案が、展示品の数々に残っている……それを知ると、歴史の証人になったようでワクワクしませんか。

■実は引きこもりオタクだった?皇帝の驚異的な教養の深さ!

ではこの「驚異の部屋」の主人・ルドルフ2世はどうでしょうか。
彼は神聖ローマ帝国を治める一族(ハプスブルク家)間で生まれたスーパーエリート(父と母はいとこ同士)。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 ハンス・フォン・アーヘン作のコピー 《ハプスブルク家、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の肖像》 1600年頃、油彩・キャンヴァス、スコークロステル城、スウェーデン Skokloster Castle, Sweden

武闘派の祖父(カール5世)がヨーロッパだけでなくアフリカにまで領土拡大の転戦に明け暮れたにも関わらず、ルドルフ2世は祖父が拡大した新世界で得られた珍しいものの収集に没頭します。

いざ本人が神聖ローマ帝国の皇帝に就任しても、政治能力は皆無。ほぼ、執務は下の人に任せ、収集品の研究にかまけてプラハ城に引きこもっていたそうです。

エリートからの大転落?

……でもないのです。
ルドルフ2世はラテン語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、そしてチェコ語にも堪能で教養が高く、科学から芸術まで幅広く探究心を示しました。その結果、「驚異の部屋」を発展させ、16世紀末よりプラハはヨーロッパの科学と芸術の一大中心地となったのです。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 ルーラント・サーフェリー 《2 頭の馬と馬丁たち》 1628年頃、油彩・板、コルトレイク市美術館、ベルギー Loaned from the City Museums, Kortrijk(Belgium)

皇帝が収集したのは、動植物、人工物、鉱石から宝石、機械、メダルや古銭などなど。プラハ城には今でいう動物園があり、ヨーロッパにいるはずのないライオンやラクダなども飼育されていたそうです。

それもこれも皇帝自身が現地に赴いて手に入れていたものではなく、代理人・顧問官による買いあさり、親類縁者の遺産吸収、また外交で他国からの献上で得たもの。

引きこもりのルドルフ2世の逸話としては面白いものがあります。
どうやらお抱えの宮廷画家ルーラント・サーフェリーに旅をさせて、チロルの森風景などを描き留めるように依頼したそうです。今でいえば、部屋でインターネットを通じて観光地の写真を眺めるようなものでしょうか。

現代の収集家たちが自分の足を動かすのに対して、スーパーオタク皇帝はその権力と財を有効に利用し、貴重な品々が自動で集まる仕組みをつくりだしたようです。

■時代に散ったコレクション。再現の価値とは

今回展示されているコレクションは、ほんの一部。
プラハに残りのコレクションがあるのでは?と期待を寄せますが、実はコレクションは度重なる戦禍に巻き込まれて、大半を失っています。

1612年にルドルフ2世が死去すると、皇帝職を担った弟のマティアスはウィーンに遷都。膨大なコレクションはハプスブルク家の貴重な財産となっていたので、記録作成、移送を試みますが、弟も7年後にこの世を去ります。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

現代でも真の芸術はどこに属するべきか議論されていますが、当時も各所から返還要求がなされます。ほかにも戦争で戦利品として他国に渡るもの、美術商によって売却されるものもあり、コレクションは散り散りになってしまいました。

ではこの今回の展示品はどのようにして集められたのでしょうか。解決の糸口は展覧会の出口付近、ガラスケースの中に入った、ルドルフコレクションの目録(写本)にあります。

目録には、コレクター本人が直々に解説したであろう品々の特徴が記されており、その体裁は百科事典さながら。

渋谷Bunkamuraのザ・ミュージアム 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン《ルドルフ2世の治世の寓意》1603年、油彩・キャンヴァス、プレモントレ修道会ストラホフ修道院、プラハ、チェコ共和国 Strahov Monastery-Picture Gallery,Prague

もちろんコレクションは完璧なものではありません。今回の展示作品の一部にも「旧蔵の可能性がある作品」と記され、あくまでもルドルフ2世の関心の道すじをたどるものです。

とはいえ「実際の旧蔵作品でないと価値がない」と考えるのは大間違い。
恐竜博物館で展示される恐竜の模造に触れた子どもたちが、何億年前の地球を想像して胸を躍らせるように、博物館に本物が並ばなくとも、歴史を学ぶことができます。

今回再現されたコレクションから当時の世界観、思想に触れ、現代では当たり前となっている知の体系がどのようにできたのかを知ることができました。好奇心から始まったコレクションとはいえ、文化の礎を築いた皇帝には頭が下がる想いです。

きらびやかで上品な王室コレクション?
Bunkamuraで見られるのは、ひとりのスーパーオタクが人生をかけて集めた、現代に通じる「時代のコレクション」です。

時を超えて、国を超えて。ルドルフ2世の自慢話に耳を傾けてみませんか。

次回も引き続き「神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展」の世界観に触れていく予定です。2月の中旬頃に公開予定なので、ぜひご覧ください!

【開催概要】
開催期間:2018/1/6(土)-3/11(日)
2/13(火)のみ休館
開館時間:
10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)
URL:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_rudolf/




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