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20世紀の「インスタ映え」?美意識が凝縮された「猪熊弦一郎展 猫たち」

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2018/4/12更新

3月20日から4月18日まで、東京・渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムで展示されている猪熊弦一郎が描く「猫たち」。

展示会には猫を中心としたスケッチ、線画、墨絵から油彩まで様々な筆を駆使した作品が並び、そのバリエーションに圧倒されます。

「猫の画家」とも称された猪熊弦一郎ですが、その作風は同時代のピカソと同じように変化し続けていたため、一言では表しにくいというのが正直なところ。

彼はなにを考え、求めて創作していたのか。頭が擦り切れるくらい考察を重ねたところ、現代人にも共通する美的感覚がようやく見えてきました。 それは猪熊弦一郎が「インスタ映え」的美意識で創作していたということです。

■20世紀的「インスタ映え」は印象を凝縮した抽象主義?

(左から)猪熊弦一郎 《裸婦と猫》 1949年 油彩・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《婦人と猫》 1949 年 油彩・カンヴァス 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

もちろん、20世紀にスマートホンも、インスタグラムも存在しません。しかし「インスタ映え」=「なにかをより美しく見せるために加工する」美意識は猪熊弦一郎の作品に通じているのではないかと考えたのです。

例えば、お皿の上に乗っている食べ物を撮影するとき、美味しそうか、おしゃれかなど見え方を意識し、撮影角度・構図・色・ものの配置などを調整してピンと来たところでシャッターを押しますよね。

「美」というと、整っている・美しい・きれいなものをイメージしますが、芸術においてはその限りではありません。「美」はその人の琴線に触れたもの、印象づいたものが結びつきます。

猪熊は心に印象づいたもの(猫や猫と人間の関係性)を、スケッチそのままに作品として描き起こすのではなく、必ず構図や色、形さえも崩し、組み直して創作したのです。

猪熊弦一郎 《自転車と娘》 1954年 水彩、クレパス・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

例えば《自転車と娘》は、写真にフィルターやスタンプ加工した写真のようです。こちらはとある雑誌の表紙用に描いたものですが、モチーフは決まっていたものの、写実的に描いてしまうと単なる広告絵になる懸念がありました。そこでパステルな色調に変え、フォルムを崩し、猫をちょこんとサドルの上に乗せて、絵本の挿絵のように仕上げることで、人に与える印象を加工したのです。

また1955年より創作の拠点をアメリカ・ニューヨークに移し、本格的な抽象主義的表現へと取り組みますが、その当時描かれていたのは、摩天楼を崩した幾何学的模様に、ぽつんとある円。

(左から)猪熊弦一郎 《Landscape QR》 1966年 油彩、コンテ・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《City Planning Yellow No.1》 1968年 アクリル・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《Landscape Green A》1976年 アクリル・カンヴァス すべて丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

「建物という四角い直線的なものの中に、イレギュラーな人間のボディーが存在するってこと自体がもう不思議なんです」(RNCエリア情報 1982年10月20日)

猪熊のこの言葉通り、彼は景色の中にいる人間に違和感を覚え、その印象を筆に起こしました。建物を四角に、人間を円にまとめ、円が画面から目立たずに、でも人が気付いたときに「あれ」と感じるように構図と色彩を組み立てていく。

印象のインプットとモチーフの加工、そして凝縮した美意識のアウトプットという一連の作業は、ともすれば他の画家にも通じるものです。しかし猪熊の場合は、猫を何百匹と描いたからこそできたように感じられるのです。

■加速する猫への想い。フィルターはより分厚くなり彼の思考と一体化する

現代のSNS、メディアでの猫は「数字が取れる」人気コンテンツですが、もちろん人気画家を目指して猪熊が猫を描き続けたわけではありません。

(左から)猪熊弦一郎 題名不明 1954年 油彩・カンヴァス / 猪熊弦一郎 題名不明 1954年頃 油彩・カンヴァス 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

彼が描いていたのは、人間の世界で生きる猫たち。のんびりと自由気ままに昼寝と散歩をし、時には激しい鳴き声を伴うケンカで獣らしさを覗かせます。人間と同じように成長し、一様に同じ動きをしない彼らは、芸術家にとっては格好のモチーフです。

しかし長年猫にまみれて過ごした彼の目には「愛情」という分厚いフィルターがかかっており、猫を芸術のモチーフとして描き崩す行為が難しかったようです。

(左から)猪熊弦一郎 題名不明 制作年不明 インク、水彩・紙 / 猪熊弦一郎 題名不明 1977年頃 墨・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

様々なパターンで何百匹と描かれた猫たちを経て、なんとか「猫も方便」化することに成功し、この頃から猪熊は画面構成を考えることに面白さを感じるようになりました。しかし猪熊の美意識がアウトプットされた作品には、猫への多大なる愛は健在でした。

猪熊弦一郎 題名不明 制作年不明 パステル・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

肩の上に乗る猫。1950年代に、猪熊は猫が人の頭に乗っている作品を数点描いていますが、その姿はまるで人間が猫に支配されているように見えます。猪熊の愛情フィルターはより強固に分厚くなることで、猫たちは人間よりも優位とさえ感じられる姿で画面に現れるようになったのです。

そして晩年、猪熊の猫に対して愛情よりも強い想いがちょっとしたメモから読み取ることができます。それは新たな作品の構図を模索する際に描いた、猫だらけのラフ図案。

猪熊弦一郎 題名不明 1986年 インク・紙 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

まるで息をするように猫を描くその様子から、猪熊の思考の片隅には必ず猫がいて、彼の創作を手助けしているように感じられます。まさに「猫の画家」です。

(左から)猪熊弦一郎 《顔・猫》 1991年 アクリル、コラージュ・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《顔2 猫2 鳥8》 1991年 アクリル・カンヴァス / 猪熊弦一郎 《二人の裸婦と一つの顔》 1989年 アクリル・カンヴァス すべて丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵 ©The MIMOCA Foundation

「猫たち」がメインの展示会ですが、作品の変遷は見どころのひとつです。猪熊弦一郎の作品と対峙するとき、SNSに投稿された画像のように、なにも考えずに感覚に委ねて鑑賞するといいかもしれません。そのうち作品のほうから、あなたの美意識に語りかけてくれますよ。

【開催概要】
開催期間:2018/3/20(火)-4/18(水) *会期中無休
開館時間:
10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)
URL:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_inokuma/




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