ホームSHIBUYA Community > 映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.35 プーさんがあなたの“働き方”を問う 『プーと大人になった僕』

SHIBUYA Community

映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.35 プーさんがあなたの“働き方”を問う 『プーと大人になった僕』

  • facebook
  • twitter
  • hatena

2018/9/7更新

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。35回目は、映画『プーと大人になった僕』です。本作は、TOHOシネマズ渋谷でご覧いただけます。

プーさんがあなたの“働き方”を問う

(C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

“くまのプーさん”といえば、渋谷のみなさんはもちろん、誰もがその名を聞いたことがあると思います。クリストファー・ロビン少年と100エーカーの森に住むくまのぬいぐるみ、プーや彼の友人たちの友情の物語です。

原作は、1926年にイギリスの作家、A・A・ミルンによって執筆された児童小説『クマのプーさん』。これをもとにディズニーが1966年に短編アニメーション映画『プーさんとはちみつ』を、1968年には『プーさんと大あらし』を手がけ、ディズニー作品としての印象が強くなりました。

今やディズニーの人気キャラクターとして1、2を争う存在である“くまのプーさん”。そんな“くまのプーさん”をディズニーが実写映画化したのが本作『プーと大人になった僕』です。

タイトルから分かる通り、本作はこれまで描かれてきた“くまのプーさん”ではありません。本シリーズに登場する重要人物、クリストファー・ロビン少年が大人になった時、プーさんとその仲間たちは一体何をしているのか、という視点で本作は描かれています。

原作や過去のディズニー作品では、クリストファー・ロビンの少年期の物語でしたが、実写化にあたって劇中の時間が大きく経過しています。それにより子供の心を忘れてしまったクリストファー・ロビンがかつての自分と向き合うという、これまでにない新しい物語になっています。

(C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

物語は、プーとその仲間たちとクリストファー・ロビンの別れから始まります。親の教育として幼い段階で寄宿学校に隔離され、厳しく育てられたクリストファー・ロビンはその後、真面目な大人となり、妻と娘にも恵まれて、全力で仕事に邁進していました。

一方、100エーカーの森で、仲間たちと変わらない日々をのんびり過ごしていたプー。しかしある日、その仲間たち全員が姿を消してしまうのです。彼らはどこへ行ったのか。プーは消えた仲間たちを探すために、ロンドンに住む旧友であるクリストファー・ロビンの元を訪ねるのです。

本作は、「100歳になってもきみのことは絶対に忘れない」とプーに言ったクリストファー・ロビンが、現実社会の洗礼を受けて疲れ切った中間管理職になっている悲哀と、月日が流れても全く変わらずに脱力系のプーとその仲間たちという構図が、独特のユーモアを醸し出しています。

かつては同じものを同じように見ていた彼らだからこそ、年月と社会との摩擦で人間としてすり減って生まれた認識のギャップが、観客に一抹の切なさを感じさせます。

大人になったクリストファー・ロビンは、何事にも能天気なプーに苛立ちます。しかしプーには、物事を考えるのが苦手だけど純粋な心で真実を見通す力があります。

クリストファー・ロビンは、仕事のために家族との時間を軽視する人間になっているのですが、プーとの再会によって自分の人生にとって何が一番大切なのかに気づき、立ち戻ることになります。

そんなクリストファー・ロビンの姿を見つめるうちに、観客は自分を見つめなおします。仕事に邁進することを無条件の正義ととらえて、家族や生活が疎かになっている現代への批評精神が、本作には感じられます。言うなれば、かわいいくまの皮をかぶった、働き方改革映画なのです。

(C) 2018 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

ディズニーは、この数年、『シンデレラ』や『美女と野獣』など、往年のアニメーションの傑作群を実写化するプロジェクトを推進しています。本作もその流れの一つであり、今後『ピノキオ』などの名作も実写化されます。

そこで求められるものは、アニメを実写化する意味だと筆者は考えます。

本作は、その意味において、アニメーションには不足していた、大人になって疲れてしまって大切なものを忘れていないかという別の視点の獲得に成功したと言えます。本作のように、ゆるふわな表層をまといつつも鋭い現代批評性を持った、ディズニー実写作品の登場に期待したいものです。

▼Information
『プーと大人になった僕』
https://www.disney.co.jp/movie/pooh-boku.html
9月14日(金)、TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。




過去の連載もまとめてチェック!
◆vol.34 【ネタバレあり】2018年、日本映画界に起きた奇跡『カメラを止めるな!』
◆vol.33 スーパーヒーローが「時代」を描く『インクレディブル・ファミリー』
◆vol.32 人はなぜ、山に挑むのか『クレイジー・フォー・マウンテン』

ザ・スクランブルは渋谷の情報を集めて紹介するファッションマガジンです
  • facebook
  • twitter
  • hatena

pagetop