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映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.37 恋愛のその先も描く『あの頃、君を追いかけた』

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2018/10/5更新

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。37回目は、2018年10月5日(金)公開の映画『あの頃、君を追いかけた』です。本作は、ヒューマントラストシネマ渋谷でご覧いただけます。

恋愛の「その先」も描く

© 「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ

2013年に日本公開となった台湾の青春映画『あの頃、君を追いかけた』をご存知でしょうか。

同作は、台湾の作家ギデンズ・コーの自伝的小説を、作家自らが監督し映画化したもの。90年代の台湾の高校生たちの不器用な恋と青春を描いた物語で、その切なさ、もどかしさ、そして清々しい感動により、台湾国内でも大ヒットを記録しました。

日本公開時にもそのクオリティの高さから、青春映画が好きな人を中心にじわじわとクチコミが拡がり、大きな話題を呼びました。そんな傑作青春映画のリメイク企画が日本で立ち上がり、製作されて、遂に劇場公開となります。それが『あの頃、君を追いかけた』です。

© 「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ

舞台は、日本の地方都市。変わり者揃いの仲間たちと子どもじみた高校生活を送っていた主人公、水島浩介はある日、生来のだらしなさから教師に叱責され、席替えの上、クラスメートで優等生の美少女、早瀬真愛にお目付け役として面倒を見てもらうよう指示されます。

性格や学力、家庭環境も真逆と言ってもいいふたり。最初は嫌悪し反発しながらも、共に時間を過ごすうちに徐々に互いの魅力に気づき、気がつけば惹かれ合うようになります。しかし、どちらもハッキリと相手の気持ちに踏み込めずにいるうちに高校を卒業することになり、物語は転機を迎えるのです。

© 「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ

本作がズキズキと心に沁みるのは、まず、主要キャラクターたちの不器用な恋愛感情でしょう。互いを悪からず思い、思われているという気持ちがあるにもかかわらず、上手く踏み込めない関係性。

恋愛の始まりはタイミングが重要であるとすでに知っている私たちは、お互いの気持ちが通じ合っているのに、きちんと組み合うことができない二人に、いつかの自分の恋愛を投影して、強烈なもどかしさを覚えます。

© 「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ

そんな彼らの不器用な想いが視覚化される工夫も巧妙です。それは、学生服のシャツに付いた水色の染み。浩介は席替えで真愛の前の席に座ることになるのですが、浩介の勉強の面倒をみることになった真愛は、彼の肩を水色のペンで突いて呼びかけるのです。

この行為が重なるほどに、ふたりの距離はどんどん近づき、互いの恋は深まります。本作で、ふたりの気持ちはなかなか表面化しないのですが、浩介のシャツには彼らの想いが投影されたかのように、水色のインクの跡がくっきりと残るのです。

そして、本作が、よくある高校生の恋愛映画と一線を画しているのは、気持ちのスパンが長く描かれていることでしょう。多くの恋愛映画は、ある日運命の相手に出会って片思いをし、成就する、または失恋する、という一連のフローをドラマティックに描きます。

しかし本作は、多くの恋愛映画では語られないけれど、一方で我々の人生には常に存在してきた「その先」も描いています。火花のような激しい恋の煌めきだけではない愛情の残滓。それが、いつまでも残る鈍痛のようにじっくりと心に響くのです。

台湾版の『あの頃、君を追いかけた』といえば、終盤のキスシーンが秀逸なのですが、日本版もやはりすばらしいものがあります。こんなに想いが伝わるキスシーンは滅多にありません。それがどのように描かれているのか、ぜひ恋愛映画や青春映画が好きな渋谷のみなさんにも確かめてもらえたらと思います。

© 「あの頃、君を追いかけた」フィルムパートナーズ

▼Information
『あの頃、君を追いかけた』
http://anokoro-kimio.jp/
10月5日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「ぷらすと by Paravi」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「POPLETA」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。




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