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映画解説者・中井圭の「今宵は渋谷で映画でも?」vol.34 【ネタバレあり】2018年、日本映画界に起きた奇跡『カメラを止めるな!』

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2018/8/15更新

本コラムでは、「映画をもっと知りたくなる」をテーマに、渋谷で観ることができる作品をご紹介します。34回目は、現在公開中の映画『カメラを止めるな!』です。本作は、ユーロスペースでご覧いただけます。

※本コラムには「ネタバレ」が含まれます。

2018年、日本映画界に起きた奇跡

CAP:(C)ENBUゼミナール

本コラム、普段はこれから渋谷の映画館で公開される最新映画を紹介するものなのですが、今回は特別編を。

もう数週間前にひっそりと、当時は渋谷ではなく、新宿と池袋のたった2館で公開された超低予算映画があります。その映画は、ほとんど無名の監督、俳優たちによって作られ、本来であれば注目を集める要素は特にありませんでした。

しかし、公開前から試写で観た評論家やライター、映画好きな著名人たちから絶賛評が相次ぎ、それを聞きつけた一部の映画ファンの間では注目を集めていました。そして劇場公開した結果、そのよく練られた面白さとネタバレできない展開に映画ファンが熱狂。新宿K’s cinemaでは歴代連続満席記録を更新しました。

その沸騰する高評価の中、公開規模が小さすぎてチケットを手に入れるのが困難となり、映画ファンたちが観たくても観ることができない映画、という飢餓状態が発生しました。そして、地上波を含めた相当数のメディアもこの面白さに飛びつき、公開開始時たった2館だった劇場数が、異例の120館以上で拡大公開されることになりました。2018年の日本映画を語る上で極めて重要な作品となったのが、今回紹介する『カメラを止めるな!』です。

CAP:(C)ENBUゼミナール

とはいえ、実は本作、紹介がとても難しい映画です。何を語ろうとすべてがネタバレに直結する構造的に特殊な作品のため、本来であれば何も言えません。しかし、今回は公開から時間が経過したことを踏まえ、あえて内容を少し説明します。

ネタバレが絶対に嫌な人、あるいはもう観に行くことを決めている人は、今回はこの段階で本コラムを読まないでください。この映画に関しては一切の情報を入れずに観に行くのが一番面白いのは間違いありません。しかし、今回はあえてネタバレに多少踏み込み、作品の魅力を解説します。

CAP:(C)ENBUゼミナール

本作は、まず構造に特徴があります。具体的には、物語が2層構造になっていること。ひとつは、37分間ワンカット長回しで撮影されたゾンビドラマパート。そしてもうひとつは、そのドラマ撮影の舞台裏で起きたハプニングの数々を描いたコメディパートです。

まず、37分ワンカット長回しのゾンビドラマパートは、低予算ながらワンカットで撮り切った熱量が伝わってきます。時折、稚拙で違和感のある展開はあるけれど、それを脳裏に意識しながら観客はこのドラマを見つめるのです。

CAP:(C)ENBUゼミナール

そして、そのゾンビドラマパートが終わると、本作はもう一度、時間を遡ってその撮影現場をメタ的な視点で描きます。撮影現場パートの主人公は、映画やドラマの監督を生業としているしがない中年男性。彼はTV局のプロデューサーから無茶な依頼を受けて、ゾンビドラマを生放送かつワンカット長回しで撮ります。その際、予想もできない様々なトラブルに見舞われることになります。

本作は、物語の2層構造により、その時、何が起きていたのか、あの違和感はなんだったのかという驚きとユーモアを表現しているのです。

CAP:(C)ENBUゼミナール

しかし、丁寧に練り込まれた本作の脚本の真骨頂は、いわゆる“伏線と回収”ではありません。一見すると、先にネタを仕込んでおいてそれを時間差で発動させる仕組みによって、観客に驚きと笑いを与えているように見えます。事実、その機能を絶妙に果たしていることは本作の大きな魅力になっているのですが、あくまでそれらは手段でしかないのです。

本作が主張したいメッセージは、ものづくりに愚直に熱中するすべての人たちに対する愛情と家族を想う気持ちでしょう。それらを最適に表現するために、手段として効果的に“伏線と回収”を機能させています。

画面の中で予想外のハプニングに右往左往するスタッフやキャストの姿を見つめるうちに、観客は彼らを心から応援してしまいます。それは“伏線と回収”が単にウィットに富んでいるからではなく、何かをやり遂げようともがく人の心が“伏線と回収”によってより強く照射されるからこそ、ここまで大きく観る者の心を動かすことができるのです。

CAP:(C)ENBUゼミナール

加えて本作は、巧妙な脚本とは別に、もうひとつの物語性をまとっています。本作はいわゆる商業映画としてではなく、ENBUゼミナールのワークショップで製作されています。つまり、映画を作るために集まり学んでいる夢追い人たちが、このテーマで映画を生み出している。そこに運命と必然性を感じるのです。

そして、本作が最も素晴らしいのはエンドロール、とも言えるでしょう。この映画は2層構造だと前述しましたが、本当の意味では3層構造になっています。

エンドロールに映り込んだ人々の姿こそ、この映画を見つめ続けた観客の胸を熱くします。往年のジャッキー・チェンの作品群のエンドロールで描かれた、アクションスタントのNG集を想起するかのように、そこでは本作にかけたキャストやスタッフたちの熱量があふれ出しています。ホラー、コメディ、人間ドラマとジャンルをまたいだ先にある、この映画を生み出した人々の姿を映し出すドキュメンタリー……本作の真の本編は、エンドロールなのです。

本作は、2018年の日本映画界に起きた奇跡として語り継がれるでしょう。いずれ本作を劇場で観ておいたことを誇れる瞬間が来ると思いますので、渋谷のみなさまにも是非ご覧いただきたいと願います。

CAP:(C)ENBUゼミナール

▼Information
『カメラを止めるな!』
http://kametome.net/index.html
渋谷ユーロスペース、新宿K’s cinema、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

▼中井圭 プロフィール
兵庫県出身。映画解説者。WOWOW「映画工房」ニコ生公式「WOWOWぷらすと」「シネマのミカタ」TOKYO FM「TOKYO FM WORLD」などに出演中。「CUT」「STUDIO VOICE」「michill」「Numero TOKYO」「観ずに死ねるか」シリーズなどで映画評を寄稿。東京国際映画祭や映画トークイベントに登壇し、映画解説を展開。面白い人に面白い映画を観てもらって作品認知度を高めるプロジェクト「映画の天才」や物事に関心のある人を増やすPJ「偶然の学校」などを主催。




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