子どものころ、僕らはみんな旅人だった。想像の翼を生やして目をつむれば、パリの路地裏にだってウガンダの湖畔にだって飛んで行けたのだ。今は旅に行きにくい? いやいや、仕事の合間のたった60分でいい。想像力と好奇心を携えて仕事場を飛び出せば、見慣れた街が旅先になる。さぁ、60分の旅に出かけよう! 今回の旅先は南新宿エリアだ。
あー、やってしまった。仕事じゃクライアントとトラブって、プライベートじゃちょっとした一言で彼女と喧嘩に。ダメダメな自分に嫌気がさして、ちょっと一旦、世の中から距離をおきたい気分……。そんな日には南新宿へのプチトリップがおすすめだ。
「渋谷のスポットを紹介する企画なのに、南新宿?」と思った? なにをかくそう、小田急小田原線の「南新宿駅」は「渋谷区代々木二丁目」にある。そう、ここも立派な「渋谷区」なのだ。
ただ南新宿は、スクランブル交差点みたいな、いわゆる「シブヤ」のイメージとはちょっと違う。このエリアの印象を一言でいうなら「迷子になれる街(まち)」。新宿のビル街や渋谷の盛り場とちがって、高いビルも大きな商業施設もない。なんだか街が押し付けがましくないので、ちょっと人間関係に疲れちゃった、人生の迷子をやさしく受け入れてくれる感じがする。
こういう線路下で、ときどき通る小田急線のガタンガタンという音を聴きながら缶ビールをちびちび飲んだら、やさぐれた心も癒されそうだ。
見上げれば新宿の高島屋タイムズスクエアが。あそこでは今もカップルが買い物したり、スーツ姿のビジネスパーソンが急いで打ち合わせに向かっていたりするのだと思うと、ちょっと世俗を離れた感がある。
目を落とすと、ん?
これは、ハンバーガー? 突如あらわれた看板に惹かれて進むと、そこにあるのはハンバーガー屋「ICON」。数々のメディアでも取り上げられている、ハンバーガーマニアたちを唸らせる名店だ。
扉を開けてびっくり、壁にはずらっと並んだハンバーガーグッズたち。
ここではハンバーガーは単なる「食」であることを超えて、ひとつの「文化」なのだ、という強烈なメッセージがビジビシ伝わってくる。ちょうどお腹もすいてきたので、ランチセットをいただくことにした。
自家製ベーコンを使ったオリジナルバーガー(1,550円/ランチはマッシュポテト、スープ付)は、ボリューミーかつジューシー、でも脂っこくなくてペロリといけてしまう。レギュラーメニューの他に期間限定のハンバーガーも提供しているそうなので、何度でも通ってしまいそうだ。
お腹がいっぱいになると、気分も晴れてくる。腹ごなしに、南新宿で迷子になる旅をもうちょっと楽しんでみようかな。
少し歩くと目に飛び込んできたのは、「代々木名物大学定食」の看板。
……「大学定食」?
この定食屋「しょうが亭」にはいろんな大学名を冠したメニューがあるらしい。さすが、某大手大学受験予備校があるまちだ。
テイクアウトのメニューも、ご覧の通り(早稲田は休校中らしい)。ど、どれも気になる。さすがに今日はハンバーガーでお腹いっぱいだけど、今度食べにきてみようかな。
迷子になる醍醐味は、普段気付けない景色に気づくことができることだ。そう、たとえばこんなのも。
えーっと、なんだっけこのキャラクター。3分ぐらい考えてから、「あ、ベビー◯ターラーメンのあいつだ!」と気づいた。最近見ないと思ったら、2016年をもって引退していたらしい。
ただよく見るとこいつはロン毛で、若干アマビエっぽさも感じなくもない。お前は誰なんだ……? 普通の民家らしい建物の窓に貼ってあるのも謎だし。魔除けの類なのだろうか。
こんなふうに、新宿にあるビル群のふもとのような南新宿エリアでは、迷路のような路地にコアな文化がひっそりと息づいている。迷子になるにはこんなに楽しいエリアはなかなかない。ちょっとイヤなことがあった日は、あなたも南新宿へのプチトリップなんていかがですか?
本日の60分の旅、これにて終了!
A:南新宿駅
B:小田原線線路下
C:ICON(ハンバーガー)
D:しょうが亭