日頃の感謝を込めて年末に贈る「お歳暮」は、日本で受け継がれている風習です。11月にも入るとチラシやTVCMなどで目にする機会も多くなりますよね。
プライベートだけでなく、ビジネスにおいても贈る機会があるため、贈るならきちんとマナーを確認しておきたいところ。そこで今回は、贈る際、そしていただいた際などさまざまなケースを想定して、お歳暮に関連する「マナー」についてご紹介します。
「歳暮」はもともと「年の暮れ」を表す言葉です。日本では年の暮れになると、日頃お世話になっている人に感謝の気持ちを伝えるために、「歳暮回り」という行事が行われていました。現代においても、年末のご挨拶をしに取引先へ訪れる会社がありますよね。その際に持参していた手土産などの贈り物を「お歳暮」と呼ぶようになったと言われています。
似た風習で夏の「お中元」がありますが、お歳暮との違いはなんでしょうか。お中元の由来は仏教の年中行事「盂蘭盆会(うらぼんえ)」にあり、日本でいうところの「お盆」に当たります。このことから、1年の上半期にお世話になった人へお盆時期に贈るのが「お中元」、1年間お世話になった人へ贈るのが「お歳暮」です。一般的にお中元を贈った人にはお歳暮も贈ります。しかし予算の都合で贈るのが厳しい場合は、お歳暮を優先しましょう。
本来、お歳暮は風呂敷に包んで相手の家へと直接持参するのがマナーです。しかし遠方の場合や、直接訪問すると却って相手に気を遣わせてしまう場合があるため、郵送でも問題ありません。
郵送する際、特に生鮮のものを贈る場合は事前に電話や手紙などで、あらかじめ相手に知らせておくと良いでしょう。もし電話やメールなどでやりとりできれば、都合の良い時間帯を聞いておくとベターです。
ではお歳暮を贈る際、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。お歳暮に関連する基本的なマナーをご紹介します。
お歳暮を贈る時期は地域によって異なり、また諸説あります。大まかに分けると以下のようになります。
・関東:12月初旬から20日頃まで
・関西:12月10日から20日頃まで
目安となる「20日」以降は年末に差し掛かるため、相手が年始の準備、帰省などで忙しく、また留守にしている可能性があるので、なるべく上記の期間内に贈りましょう。ただし、生鮮食品を贈る際は、お正月に近づけて届けるのがマナーです。日持ちしないため、事前に届く日にちを相手に伝えて年末に届けましょう。
年賀状と違って、喪中でもお歳暮を贈ることはできます。しかし、故人が亡くなってからの49日間を指す「忌中」は避け、法要を終えた忌明けに贈りましょう。相手が喪中の場合でも、忌明けに贈れば問題はありません。
そもそもお歳暮はどういう人に贈ればよいのでしょうか。お歳暮は、「日頃の感謝の気持ち」を伝えるだけでなく、来年以降の挨拶を兼ねた贈り物です。明確な決まりはありませんが、今後の付き合いを踏まえて、以下のような人々に贈ると良いでしょう。
【プライベート】
・実家の両親
・義両親
・親戚
・(結婚して間もない場合)仲人、媒酌人 ※結婚後3年間は贈るのがマナー
・習い事の先生
・(友人・同僚) ※遠方でなかなか会えない場合など
【ビジネス】
・上司
・取引先
基本的にお歳暮は「目上の人」に贈るのが一般的です。しかし、遠方でなかなか会えない友人や同僚へ、季節の挨拶の代わりに贈ることもあります。習い事の先生に贈る場合、ほかの生徒との関係性もあるので、事前に周囲へ確認を取るか、手渡しする際は先生と2人きりの状況で渡すなど配慮しましょう。
ただし、公立校の先生といった公務員、政治家など公的な職業に就いている人は、利害関係者からの物品の受け取りは法律で禁止されています。お歳暮を贈ることができないので注意してください。
また、近年はコンプライアンスの関係で、社内・社外どちらにおいてもお歳暮などのやり取りを禁止している場合があるので、贈る相手に事前に確認をしておくと安心です。日頃お世話になっている人だからこそ、迷惑をかけないように配慮しましょう。
お中元よりも金額を高めにする「お歳暮」ですが、一体いくらくらいが相場なのでしょうか。基本的に付き合いの深さや、相手の年齢によって金額を変えるのがマナーです。贈る相手別に相場をまとめてみましたので、参考にしてみてください。
【プライベート】
・実感の両親 5,000円程度
・義両親 5,000円程度
・親戚 5,000円程度
・仲人、媒酌人 5,000円程度
・習い事の先生 5,000円程度
・友人・同僚 3,000円程度
【ビジネス】
・上司 5,000円程度
・取引先 3,000円程度
金額が高すぎると相手に気を遣わせてしまう可能性があるため、上限5,000円程度が一般的です。お中元とお歳暮を両方贈る場合、お中元よりも2割程度高いものをお歳暮で選ぶのが良いと考えられています。お歳暮は毎年続けていくものなので、お財布と相談して無理のない範囲で予算を決めてください。
しかし、その年に特にお世話になった目上の人には、時として1万円程度の贈り物をする場合もあります。基本的にお歳暮は一度贈れば、継続しなければいけません。もし、その年限りで贈る場合は、表書きを「御歳暮」ではなく「御礼」にして贈りましょう。
贈る相手が決まっても、品物をどのように選べば良いのか迷ってしまいますよね。定番としてハム・ソーセージ、コーヒーやビールの詰め合わせなどもありますが、お世話になった人に贈るものだからこそ、こだわりたい気持ちもあります。
そこで品物を選ぶポイントとして、以下を参考にしてみてください。
・相手の趣味嗜好に合うもの 例)コーヒー、アルコール類など
・家族構成・ライフスタイルに合ったもの 例)ジュース詰め合わせなど
・食品なら日持ちするもの 例)肉加工品、調味料など
・生鮮食品なら正月料理で食べきれるもの 例)旬の果物、年取り魚など
・大量にあっても困らないもの(消耗品) 例)洗剤など
・(取引先に贈る場合など)小分けできるもの 例)菓子類、インスタント飲料など
最近は相手が選べるカタログギフトも人気です。贈る側は手軽なので「失礼に当たるのでは」と考えがちですが、相手が好きなものを選べるので、喜ばれるケースが多いのだとか。予算ごとにカタログを選ぶことができるので、選択肢のひとつとして挙げても良いでしょう。ほかにも贈る相手によって品物を選ぶヒントや注意点をご紹介します。
両親、義両親、親戚など親族に当たる人へのお歳暮は、自分では買う機会があまりない高級菓子や地域限定のものなどが喜ばれます。調味料やアルコール類も、普段のものよりもワンランク上のものを選んでみましょう。
相手の趣味嗜好やライフスタイルがはっきりしているなら、好みに合わせてギフトを探すのも手です。コーヒー好きの人なら専門店のコーヒー豆の詰め合わせ、子どもがいる家庭にはジュースの詰め合わせなどもおすすめです。
ビジネスにおいて取引先に贈る場合は、受け取る相手がひとりとは限りません。部署・チームなどの大人数で分け合える、小分けにパッケージされた詰め合わせなどを贈るとよいでしょう。お菓子セット、顆粒スティックの飲み物など、日持ちできて休憩時間に一息をつけるような食品は喜ばれます。また別の都道府県に所在する企業であれば、ご当地の名産品を選ぶと、相手の記憶にも残りやすいでしょう。
お歳暮に限らず、贈り物として不適切なものもあります。以下のような品物は失礼に当たるので、選ばないようにしましょう。
・靴下・スリッパ・下着
靴下やスリッパは足に履いて地面を踏むものです。そのため「相手を踏みつける」という意味に相手が捉えかねないためタブーとされています。また靴下・下着の「下」は相手を「下に見ている」という意味を含むのでNGです。
・はさみ、包丁などの刃物
古くは「縁を切る」という意味に受け取られるために、贈答には向かないとされていました。しかし近年は、「(未来を)切り拓く」ものとして贈ることもあるようです。誤解されないためにも贈る際はメッセージを添えるか、もしくは贈らないほうが無難でしょう。
・現金や金券
親族間では出産・結婚祝いなどで現金を贈ることが一般的ですが、お歳暮においては「お金に困っている」という意味に受け取られるため、避けましょう。
ほかにも、加工に時間と手間がかかる魚介類、塊肉などは大きくて見栄えしますが、高齢者など相手によっては負担になる場合もあります。どんな品物がふさわしく、相手に困らせないか、きちんと配慮して贈るようにしましょう。
お歳暮を直接相手に手渡すときは、風呂敷に包んで持参するのがマナーです。郵送の場合は、包装紙のままで構いません。しかし、お歳暮などかしこまった贈り物には「熨斗(のし)」をつけるのが正式なマナーとされています。「熨斗」をつけるのは日本の贈答の特徴で、もともとは神仏へのお供え物に用いられるものです。では熨斗をどのようなものを選べば良いのか見ていきましょう。
一般的なお歳暮ギフトでは、水引とのしを印刷した簡易的な「のし紙」を品物に巻き付けて、略式の贈答体裁で贈ります。お歳暮用ののし紙は以下のポイントで選びましょう。
・紅白の水引(蝶結び)
・水引の糸の本数が奇数(5本が一般的)
・のし紙の右上には熨斗がプリントされている
・水引の上の「表書き」は「御歳暮」を書く/印刷する
・水引の下の「下書き」には自分(贈り元)の名前をフルネームで書く/印刷する
送る相手が喪中で、お祝いに用いる「紅白」が不謹慎に感じる場合は、水引なしの無地ののし紙を選び、表書きは「御歳暮」ないし「御礼」と入れましょう。
のしのかけ方には「内のし」と「外のし」の2種類があります。
・内のし:品物の上にのしをかけて、上から包装紙を包む方法。郵送の場合や、控えめにお祝いをしたいときに用いられます。
・外のし:包装紙の上からのしをかける方法。直接訪問して品物を渡す場合や、お祝いする気持ちを強く伝えたいときに用いられます。
使い分けについては、地域差や家庭の習慣によって異なるので、身近な人や店員さんに相談してみてください。
お歳暮を連名で贈る場合は、年齢や職位が上の方を右側に位置させ、左へと順に書いていきます。自身の手で書く際は、文字が水引や熨斗にかからないようにして、表書きよりも小さめにましょう。書く際は小筆、筆ペンなどの毛筆を用いるのがマナーです。そのほか、細かな決まり事をご紹介します。
・夫婦などの連名の場合
夫婦や家族などの連名で贈る場合は、男性を右に、女性を左側にして名前を記します。水引の結び目を中央として、左右対称に書きましょう。同性による連名は右側から五十音順に記すと良いでしょう。
・法人+代表者の記名の場合
法人で贈る場合には、代表者名を中央下部に、会社名を個人名の右上に小さく添えます。もちろん、代表者名を書かずに、法人名だけを中央に記すのでも構いません。社名や代表者名が英数字の場合でも縦書きが基本ですが、カタカナで表記できる場合は、カタカナの記載がおすすめです。
・連名(3名まで)
連名で、全員の氏名を書くのは3名が限度です。年齢や職位が上の人の氏名を中央に記し、そこから左へと名前を連ねます(左右対称にはなりません)。同僚同士の場合は、結び目を中心に左右バランスよく記名しましょう(右側から五十音順)。
・連名(4人以上)
4名以上で連名をする倍は、代表者氏名を中央に書き、その左横のやや下に「他一同」や「○○部一同」、「有志一同」などと記します。そして中包みに代表者以外の氏名を書くようにしましょう。
お歳暮をもらった際、特にお返しは必要ありません。自分がお歳暮を贈った覚えがない方からいただいても同様です。お返しをしてしまうと却って「気を遣わせてしまった」という印象を与えかねません。もしお返しを贈りたい場合は、いただいた品物の半額から同額程度の品物を「御礼」もしくは「寒中御見舞」の表書きで贈ります。
返礼の品を送らなくとも、お歳暮をもらったらお礼状をできる限り早く(届いてから3日を目安に)送るのがマナーです。お礼状の送付は、いただいたお礼はもちろん、無事に品物が届いた旨を相手に知らせる意味合いも兼ねています。近い間柄では、電話やメールなどでお礼を済ませても良いでしょう。ただし目上の方からいただいた場合は、直筆の手紙ないしハガキを送ると、丁寧な印象を与えます。
お礼状は書き慣れていないと、どのように書いたらいいのかわかりませんよね。決まった文面はありませんが、以下のような流れで書くと良いでしょう。形式は手紙、ハガキどちらでも構いません。必ず直筆で書きます。
・時候の挨拶を入れる
・感謝を述べる(受け取ったときの自身・家族の反応・感想を入れるとなおよし)
・自身・家族の近況を記す
・相手や家族の健康を気遣う言葉を入れる
・結びの言葉
年末は予定が重なるものです。もしお歳暮の手配が間に合わず、年内に贈ることができない場合は、贈る時期を年明けにずらしても大丈夫です。しかし、のし紙の表書きは「御歳暮」ではなく、贈る時期によって変わります。
・1月1日~1月7日(松の内)に贈る:「御年賀」
・1月8日~2月4日(立春)に贈る:「寒中御見舞」/目上の方に贈る場合「寒中御伺」
年末が忌中で贈る時期を逃してしまったときも同様です。ただし、香典返しと時期が重なりそうな場合は、先に挨拶状を添えた香典返しを手配し、少し間を明けてから贈り物を送るようにしましょう。
日頃の感謝の気持ちと、「来年も宜しくお願い致します」という挨拶を兼ねるお歳暮ですが、マナーがなっていなければ、贈る側の気持ちが伝わらなくなってしまいます。畏まりすぎず、でも基本をきちんと押さえて、来年以降も良好な関係を続けられるようなギフトを贈りましょう!